イネにおける作物体内ミネラル輸送ダイナミクスの解析手法の開発

要約

イネにおいて、作物体内のミネラル輸送のダイナミクスを解析する数理モデルである。この数理モデルでは、特にケイ素について、イネにおける導管と師管のケイ素の流れ、イネにおけるケイ素輸送タンパク質の発現量のコントロールがモデル化されている。

  • キーワード:イネ、ミネラル、ケイ素、数理モデル、ミネラル輸送、トランスポーター
  • 担当:農業環境変動研究センター・環境情報基盤研究領域・統計モデル解析ユニット
  • 代表連絡先: niaes_manual@ml.affrc.go.jp
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

農業生態系変動の計測・モニタリング・解析のためには、精度の高い・膨大なデータを計測・モニタリングする技術の発展とともに、そのデータを解析するための数理モデルの開発も欠かせない。近年、リアルタイムPCRやICP-MSなど、作物の遺伝子発現や作物内の元素質量を経時的に大量に測定する技術が急速に発展する一方、そのデータを解析するための数理モデルの発展は遅れている。また、オープンデータが国の方針として実施される中、データだけではなく、そのデータを活用するためのフレームワークも求められている。
本研究では、膨大なデータを有効に活用した、かつ、科学的エビデンスに依拠した農業活動の基礎として、イネにおけるミネラルの輸送ダイナミクスを解析するための数理モデルを開発する。また、モデルの有効活用の一例として、ケイ素の輸送体タンパク質の遺伝子発現量に関する時系列データの解析例を提示する。

成果の内容・特徴

  • 今回開発した数理モデルでは、イネの水輸送・水輸送に伴うミネラル輸送・イネによるミネラル吸収量のコントロールをモデル化する(図1)。つまり、イネの根がミネラルを吸収し、蒸散に伴う導管流によって作物体上部へとミネラルを輸送し、葉へと蓄積する一方、葉への蓄積量や水ストレスに反応して、コントロール物質を師管流にのせて作物体株へと輸送する一連の過程をモデル化する(図2)。
  • 開発されたモデルは、蒸散量や作物の形状、葉面積などの基本的なデータを入力することによって駆動する。
  • 開発されたモデルは、実験室において測定されているケイ素の輸送体タンパク質の発現量の時系列データを良く再現できる。本モデルはミネラル輸送と、それにともなう遺伝子の発現量コントロールをモデル化した初めてのモデルとなる。
  • 開発されたモデルの研究における有効性を例示するために、モデルを使用して、イネにおけるケイ素輸送体タンパク質の遺伝子発現量の日変化の要因解析を行っている。その結果、イネは遺伝子発現量を日変動させる(図3)ことによって、夜の蒸散量が少ない時間帯のタンパク質量を減少させ、無駄なケイ素が根に蓄積しないようにコントロールする。これにより、遺伝子発現の最適投資を実現していることを明らかにしている。

成果の活用面・留意点

  • ミネラルの吸収や分配に関するパラメータは、それぞれのミネラルについて、植物生理学的な実験値を得なければならない。今回のケイ素の例では、過去の植物生理学的な実験における観測値を使用している。またこのモデルは、作物の成長に応じたミネラル輸送の変化は対象としていない。
  • 今回はケイ素への適用事例だが、このモデルは適切なデータとともに使用することで、他のミネラルに応用でき、イネの遺伝子発現の時系列データ、ICP-MSの測定データを活用する新たな方法を提供することになる。
  • 本モデルはR言語とFortran言語を使用したバージョンがあり、多くの研究者がある程度の説明によって利用可能なものになっている。本モデルの使用を希望する場合は、代表連絡先に問い合わせのこと。

具体的データ

図1 植物内ミネラル輸送モデルの概念図;図2 植物内ミネラル輸送モデルのネットワーク図;図3 根におけるケイ素輸送体タンパク質の発現量

その他

  • 予算区分:交付金、競争的資金(科研費)
  • 研究期間:2016~2017年度
  • 研究担当者:櫻井玄、小野圭介、馬建鋒(岡山大)、山地直樹(岡山大)、三谷奈見季(岡山大)、横沢正幸(早稲田大)
  • 発表論文等:Sakurai G. et al. (2017) Front. Plant Sci. 8:1187 doi:10.3389/fpls.2017.01187