農地土壌の放射性セシウム固定能の特徴と分布図の作成

要約

土壌の放射性セシウム固定能の指標である放射性セシウム捕捉ポテンシャル(RIP)は、炭素含量が多い土壌、風化雲母が検出されない土壌で低い傾向がある。

  • キーワード:放射性セシウム捕捉ポテンシャル(RIP)、黒ボク土、土壌炭素、風化雲母
  • 担当:農業環境変動研究センター・有害化学物質研究領域・無機化学物質ユニット
  • 代表連絡先: niaes_manual@ml.affrc.go.jp
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

作物による放射性セシウムの吸収は、土壌中濃度だけでなく、土壌が放射性セシウムを強く保持する能力によっても左右される。作物の放射性セシウム吸収低減には、カリウム施肥が有効である。東京電力福島第一原子力発電所事故後、カリウム増肥が積極的におこなわれてきたが、今後は土壌の放射性セシウム濃度や土壌条件に応じ、カリウム施肥量を調整していく必要がある。カリウム施肥量の適正化のためには、土壌の放射性セシウム濃度と併せて、放射性セシウム固定能を把握しておくことが不可欠である。そこで、土壌の放射性セシウム固定能の指標である放射性セシウム捕捉ポテンシャル(RIP)と土壌の理化学性とRIPの関係を調査するとともに、その分布図を作成し、作物による放射性セシウム吸収抑制対策の基礎資料として活用する。

成果の内容・特徴

  • 放射性セシウムは、土壌中の粘土鉱物のもつフレイド・エッジ・サイト(FES)に固定される。RIPは、137CsがKと比較してどの程度FESに固定されやすいかを測定し、土壌の放射性セシウム固定能を評価できる指標である。
  • 福島県、栃木県、宮城県、岩手県内の農地925地点より採取した作土のRIP分布図を図1に示す。調査地点のRIPは、73~12,700mmol/kgの範囲である。なお、RIPが低いほど放射性セシウム固定能は低い
  • 土壌タイプ毎にRIP値の度数分布を比較すると、黒ボク土の放射性セシウム固定能は、他の土壌タイプよりも低い傾向がある(図2)。
  • 炭素含量が高い土壌ほどRIPが低く、放射性セシウム固定能が低い傾向にある(図3)。
  • RIPは、土壌の粘土含量および陽イオン交換容量(CEC)との相関が低い(図3)。すなわちカルシウムイオンなど土壌中に常在する陽イオンの土壌への保持されやすさは、放射性セシウムの固定能とは関係がない。
  • 雲母の風化により生成した粘土鉱物であるバーミキュライト、イライト(風化雲母)、およびスメクタイトが検出されない土壌においてRIPが低い傾向にある(表1)。また、黒ボク土であるにもかかわらずRIPが高い土壌からは、風化雲母が検出される。

成果の活用面・留意点

  • 農地土壌の放射性セシウム濃度分布図と併せて活用することにより、カリウム施肥量の低減により、作物の放射性セシウム濃度が高まらないよう監視が必要な農地が分布する地域を判定することができる。

具体的データ

図1 土壌図にプロットしたRIP分布図;図2 土壌タイプごとのRIP度数分布図;図3 RIPと土壌理化学性の関係;表1 土壌から検出される粘土鉱物の種類とRIPの関係

その他

  • 予算区分:交付金、競争的資金(科研費)、その他外部資金(放射能測定調査委託事業、原子力規制庁委託事業、科学技術戦略推進費)
  • 研究期間:2012~2015年度
  • 研究担当者:山口紀子、高田裕介、神山和則、塚田祥文(福島大)、武田晃(環境研)、谷山一郎
  • 発表論文等:Yamaguchi N. et al. (2017) Soil Sci. Plant. Nutr. 63(2):119-126