2019年版改良IPCCガイドラインに採用された農耕地から発生する温室効果ガス算定法

要約

新たな算定法における世界の水田からのCH4排出係数のデフォルト値は1.19kg CH4 ha-1 d-1である。また、放牧家畜排泄物からの直接N2O排出係数のデフォルト値は牛:0.4%、羊:0.3%であり、窒素の流亡による間接N2O排出係数のデフォルト値は1.1%である。

  • キーワード:温室効果ガス、メタン、一酸化二窒素、IPCCガイドライン
  • 担当:農業環境変動研究センター・気候変動対応研究領域・温室効果ガス削減ユニット
  • 代表連絡先: niaes_manual@ml.affrc.go.jp
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

メタン(CH4)および一酸化二窒素(N2O)はそれぞれ二酸化炭素の28倍および265倍の地球温暖化係数を持つ強力な温室効果ガスである。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の国別温室効果ガスインベントリのためのガイドライン(IPCCガイドライン)は、各国が温室効果ガス排出/吸収量を算定するためのガイドラインである。2006年版IPCCガイドラインは発行されてから10年以上が経過し、近年の研究の進捗を反映したより精密な発生量推定のための改良が必要とされている。農耕地は主要な温室効果ガスの人為的発生源であることから、より精度の高い算定方法を提案し、本ガイドラインの改良に貢献する。

成果の内容・特徴

  • 水田はCH4の主要な人為的発生源である。本研究で構築した世界の水田から発生するCH4の実測値を集めたデータベースおよび統計モデルを用いた世界の水田CH4の排出係数のデフォルト値は1.19kg CH4 ha-1 d-1である(図1、論文1)。本排出係数と拡大係数(栽培前水管理、栽培期間中水管理、有機物管理による係数)を用いて、国別の年間発生量の算定が可能である。
  • 草地における放牧家畜排泄物はN2Oの主要な発生源である。本研究で構築した世界の放牧家畜排泄物から直接発生するN2Oの実測値のデータベースによる、N2Oの排出係数(投入窒素あたりのN2O発生率)は、牛:0.4%、羊:0.3%であり、これまでのデフォルト値(牛:2%、羊:1%)よりも大幅に低い(図2、論文2)。
  • 農地に施用された窒素肥料等の窒素源の一部は、降雨により地下水等へ流亡し、河川、湖沼や沿岸域等においてN2Oの発生源となっている(間接N2O発生)。本研究で構築した世界の農地からの窒素の流亡による間接N2O発生量の実測値データベースによる、N2Oの排出係数(流亡した硝酸態窒素あたりのN2O発生率)は1.1%であり、これまでのデフォルト値(0.75%)よりも高い(図3、論文3)。
  • これらの成果は2019年版改良IPCCガイドラインのデフォルト値として採用されたことから、国連気候変動枠組み条約に基づく世界各国の温室効果ガスインベントリの算定に貢献するものである。

普及のための参考情報

  • 普及対象:国際機関、各国国別温室効果ガスインベントリ担当者
  • 普及予定地域等:各国
  • 放牧家畜排泄物から直接発生するN2Oの排出係数のデフォルト値の算定に際しては、論文2に加えて2016年から2018年に発表された実測値データの追加が行われた。
  • 算定方法の詳細は、2019年版改良IPCCガイドライン(正式タイトル:2019 Refinement to the 2006 IPCC Guidelines for National Greenhouse Gas Inventories;https://www.ipcc-nggip.iges.or.jp/public/2019rf/)を参照。実測値データベースは各論文を参照。

具体的データ

図1 2006年版と2019年版IPCCガイドラインにおける水田のCH4の排出係数のデフォルト値,図2 放牧家畜排泄物から直接発生するN2Oの排出係数(糞尿に含まれる窒素あたりのN2O発生率)のデフォルト値:2006年版と2019年版のIPCCガイドラインの比較,図3 農地からの窒素の流亡による間接N2O発生量のデフォルト値:2006年版と2019年版のIPCCガイドラインの比較

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2016~2019年度
  • 研究担当者:
    秋山博子、Xiaoyuan Yan(南京土壌研究所)、Jinyang Wang(南京土壌研究所)、Yanjiang Cai(現:浙江農林大学)、Linlin Tian(現:浙江農林大学)、八木一行(現:King Mongkut's University)
  • 発表論文等:
    • Wang J. et al. (2018) Atmospheric Chemistry and Physics 18:10419-10431
    • Cai Y. and Akiyama H. (2016) The Science of the Total Environment 572:185-195
    • Tian L. et al. (2019) Environmental Pollution 245:300-306