水稲でのCO2施肥効果を高めるにはモミ数と登熟歩合の両者のCO2応答性が重要である

要約

多様な水稲品種のCO2応答性を開放系大気CO2増加(FACE)実験において検証した。水稲が今後予測される大気CO2濃度の増加に適応して高いCO2施肥効果を発揮するためには、単位面積あたりのモミ数および登熟歩合の両者が高いCO2応答性を持つことが重要である。

  • キーワード:水稲、開放系大気CO2増加実験、CO2施肥効果、品種、収量
  • 担当:農業環境変動研究センター・気候変動対応研究領域・作物温暖化応答ユニット
  • 代表連絡先: niaes_manual@ml.affrc.go.jp
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

産業革命以後大気CO2濃度は増加をつづけ、過去100年の間に100ppm以上も増加した。大気CO2濃度は今後も増加し、今世紀末には最大で936ppmにまで達すると予測されている。大気CO2濃度の増加は水稲の収量を増加させる効果がありCO2施肥効果と呼ばれるが、高いCO2施肥効果を発揮するためにはどのような特性が重要であるかについては明らかではない。そこで、本研究では明治から平成に育成された多様な水稲品種を用いて開放系大気CO2増加(FACE)実験を行い、CO2施肥効果の程度に関与する要因を解析することにより、今後予測される大気CO2濃度の増加に適応する候補品種の選定および適応品種の開発に役立てる。

成果の内容・特徴

  • 現在の大気CO2濃度(約380ppm)環境では、旧品種(「愛国」、「農林8号」)と比較して、新品種(「コシヒカリ」、「アキヒカリ」)や最新品種「あきだわら」が高い収量を示す(図1)。一方、大気CO2濃度が50年後に予測される濃度(現在濃度+200ppm)にまで増加した環境では、「コシヒカリ」や「あきだわら」が高い収量を示すが、新品種・最新品種と旧品種との収量の差は小さくなる(図1)。
  • 200ppmの大気CO2濃度増加による収量増加率では、新品種に対して旧品種の方が高い値を示す(図2)。2か年平均の収量増加率では、「農林8号」が最も高い30.3%であり、次いで「愛国」が19.3%である。また、最新品種「あきだわら」は旧品種と同等の増加率を示す。
  • 大気CO2濃度の増加による収量増加の要因を明らかにするために収量構成要素を解析したところ、収量増加に最も寄与する要因は単位面積あたりのモミ数であり、次いで登熟歩合である。本研究において大気CO2濃度の増加による収量増加率の高い品種では、単位面積あたりのモミ数だけではなく登熟歩合においても高いCO2応答性がみられた(図3)。その一方、「コシヒカリ」は単位面積あたりのモミ数において最も高いCO2応答性がみられたが、登塾歩合のCO2応答性が低いことにより、増収率は高くない。
  • 以上のことから、大気CO2濃度の増加に適応する高いCO2応答性を持つ候補品種の選定および新品種を開発する上では、単位面積あたりのモミ数および登熟歩合の両者における高いCO2応答性が重要である。

成果の活用面・留意点

  • 今後予測される高CO2濃度環境に適応する候補品種の選定および適応品種の開発の際に、本研究成果を活用することができる。
  • 本研究成果は現在の標準的な栽培条件での結果であるため、気象環境や施肥条件が大きく異なる場合には、結果が異なる可能性がある。

具体的データ

図1 異なる大気CO2濃度における新旧品種の玄米収量,図2 高CO2による収量の増加率,図3 高CO2による新旧品種の(a)単位面積あたりのモミ数および(b)登熟歩合の増加率

その他

  • 予算区分:交付金、委託プロ(温暖化適応・異常気象対応)、競争的資金(科研費)
  • 研究期間:2010~2011年度
  • 研究担当者:酒井英光、常田岳志、臼井靖浩、中村浩史(太陽計器(株))、長谷川利拡
  • 発表論文等:Sakai H. et al. (2019) Plant Prod. Sci. 22:352-366