水稲生産への気候変動影響評価に適したメッシュサイズは地形の複雑さにより異なる

要約

気候変動影響を広域で評価する際に使用するメッシュサイズは、対象とする作物や地域により異なる。わが国の水稲の場合、全国を対象とする場合や地形の平坦な地域のみを対象とする場合には10km×10kmでも可であるが、地形の複雑な地域の場合には1km×1kmを使用する必要がある。

  • キーワード:メッシュサイズ、メッシュ平均標高、水稲生育収量予測モデル、広域影響評価、気候変動影響
  • 担当:農業環境変動研究センター・気候変動対応研究領域・影響予測ユニット
  • 代表連絡先: niaes_manual@ml.affrc.go.jp
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

2018年12月の気候変動適応法の施行に伴い、自治体スケールでの気候変動影響評価の重要性が益々高まっている。既往の広域を対象とした影響評価には、国内では標準地域メッシュとして規格化されている2次メッシュ(10km×10km)あるいは3次メッシュ(1km×1km)の気象データや地理データが主に使用されているが、効果的且つ効率的に影響評価を実施するためには、対象地域や対象作物による適切なメッシュサイズを設定することが重要である。
そこで本研究では、わが国の水稲を対象とし、2種の異なるメッシュサイズ(1km、10km)の入力データを使用して水稲生育収量予測モデル(H/Hモデル)により全国を対象とした水稲収量の計算を行い、それぞれのメッシュサイズによる計算結果を、100mメッシュを使用して算出した結果と比較し、地域ごとに適正なメッシュサイズを明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 水田の多くは低地に分布するため、メッシュサイズが大きくメッシュ内の水田占有面積が小さい場合、特に複雑地形地域では、メッシュ平均標高はメッシュ内水田平均標高より高くなる傾向がある。メッシュ気温データはメッシュ平均標高に基づいて算出されているため、両者の差が大きい場合には影響評価の際の入力データに低温バイアスが生じる。図1に示されるように、10kmメッシュの場合は1kmメッシュと比較して両者の差が山間部において特に顕著であり、影響評価の計算に使用される入力データの低温バイアスが無視できないほど大きくなる可能性がある。
  • 10kmメッシュによる収量は100mメッシュによる収量と比較して、気温上昇が無い条件では甲信地方から北の山間部において過小に、東海地方から西の山間部においては過大に算定される(図2左上)。一方、気温を一律に3°C上昇させた場合には、地域によらず全国の山間部において過大に算定される(図2右上)。これは、入力データの低温バイアスにより、冷涼地では低温による減収が助長され、逆に温暖地では高温による減収が抑制されるためである。1kmメッシュの場合には入力データのバイアスが小さく、100mメッシュによる算定値と大きな差はない(図2下)。
  • 各メッシュサイズによる、気温上昇なしと3°C上昇条件での収量算定結果を、全国で集計するとメッシュサイズによらず同程度の減少となるが(図3上)、地形が複雑で気候的に比較的冷涼な甲信地方で集計すると、10kmメッシュにおいて収量は気温上昇なしで過小に、3°C上昇で過大に算定されるため、温度上昇による収量の増減が逆転する(図3下)。
  • 以上の結果より、わが国の水稲収量を対象とした場合、全国を集計する場合や平野部が大半を占める地域のみを対象にする場合には10kmメッシュを使用しても妥当な影響評価結果が得られるが、甲信地方のような地形が複雑な地域においては10kmのメッシュサイズでは気温バイアスにより適切な影響評価結果が得られない可能性があり、1kmのメッシュサイズの使用が必要である。

成果の活用面・留意点

  • 気候変動適応法では、地方自治体においても地域気候変動適応計画の策定努力義務が課せられている。そのための影響評価を行うにあたり、本研究成果を活用し、対象地域の地形的特性から適正なメッシュサイズを選択することにより、効果的で効率的に実施することが可能となる。
  • 水稲以外の作物についても、影響評価用のモデルがあり、栽培地の分布や空間スケールが特定されていれば、本研究で実施したプロセスにより、影響評価に適正なメッシュサイズを求めることが可能である。

具体的データ

図1 メッシュ平均標高とメッシュ内水田標高の差,図2 異なるメッシュサイズによる20年平(1981-2000)収量算定値と、100mメッシュによる同算定値との差,図3 各メッシュサイズにおける、温度上昇による収量の変化

その他

  • 予算区分:交付金、委託プロ(温暖化適応・異常気象対応)
  • 研究期間:2016~2018年度
  • 研究担当者:石郷岡康史、長谷川利拡、桑形恒男、西森基貴
  • 発表論文等:Ishigooka Y. et al. (2020) J. Agr. Met. 76:61-68