気候変動がわが国のコメ外観品質に及ぼす影響を広域で予測する統計モデル

要約

一等米比率の主な決定要因である白未熟粒発生率を、出穂後20日間の日平均気温26°C以上の積算値から推定する統計モデルである。全国の品質調査データと登熟期の気象条件との関係に基づいており、気候変動による将来のコメ外観品質の低下を広域で予測するために利用できる。

  • キーワード:コメ品質、日本、作物統計調査、ヒートドース
  • 担当:農業環境変動研究センター・気候変動対応研究領域・影響予測ユニット
  • 代表連絡先: niaes_manual@ml.affrc.go.jp
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

わが国におけるコメ品質の将来予測では、出穂後20日間における26°Cを基準温度とする超過分の積算値であるヒートドース値(HD_m26)を、コメ品質の低下リスクとして予測している(29年度普及成果情報)。しかしながら農業現場では、将来の影響評価やその適応策立案のために、一等米比率等の品質指標そのものの予測を望む声が強い。
そこで本研究では、農林水産省から提供された1万件に近い、コメ等級、整粒歩合、および各種の未熟粒ならびに被害米等、コメ外観品質に関する調査データに基づき、日本の代表的な水稲品種の品質の特徴と気温等の気象要素との関係を明らかにし、一等米比率と関係の深い白未熟粒発生率が予測可能な統計モデルの構築を目的とする。

成果の内容・特徴

  • 本統計モデルは、ヒートドース値(HD_m26:基準温度26°Cを上回る日平均気温の出穂後20日間積算値)から、白未熟粒発生率を予測する統計式群である(図1)。
  • 北海道から九州までで栽培されている日本の代表的な水稲15品種(表1)に適用できる。
  • ばらつきを持つデータに対する統計解析の手法の一つである分位点回帰を用いることにより、白未熟粒発生率を、その出現確率(パーセンタイル)ごとに推定できる点に特徴がある。
  • 白未熟粒発生率は、整粒歩合を通じてコメの等級と密接に関係している(図2)。この関係を用いることで、気候変動の影響をコメ価格に直結する一等米比率の変化として推定することもできる。

成果の活用面・留意点

  • 本統計モデルは現在気候条件において、HD_m26が70(°C・日)までの範囲で作成したものであり、HD_m26が70(°C・日)を頻繁に越えることが予想される将来予測においては、予測結果の信頼性が低下する点に留意が必要である。
  • 開放系大気CO2増加(FACE)実験の結果によると、現在より200ppmの高CO2環境下では、同じヒートドース値でも白未熟粒率の発生が約1.5倍に増加する(旧農環研27年度主要成果)。そのため本手法を将来予測に使用する場合は、高CO2影響に関して別個に考慮する必要がある。
  • 品種別の解析結果は、発表論文を参照していただきたい。なお本成果には、近年、新たに開発された高温耐性品種は含まれていない。地域の適応計画策定のためには、各地域で栽培されている高温耐性品種を含む独自のサンプルを用い、白未熟粒発生率とHD_m26の関係を同様な手順で解析し、統計モデルを構築することが有効である。

具体的データ

図1 ヒートドース値(HD_m26)から白未熟粒率を表す回帰線と回帰式,表1 本研究で対象とした15品種,図2 白未熟粒率と玄米の等級区分の関係

その他

  • 予算区分:
    交付金、委託プロ(温暖化適応・異常気象対応)、その他外部資金(気候変動適応研究推進、地域適応コンソーシアム事業)
  • 研究期間:2017~2019年度
  • 研究担当者:
    西森基貴、石郷岡康史、若月ひとみ、桑形恒男、長谷川利拡、吉田ひろえ、滝本貴弘、近藤始彦(名古屋大)
  • 発表論文等:西森ら(2020)生物と気象、20:1-8