過去27年間の干ばつによる世界の穀物生産被害とその詳細な地理的分布

要約

降水量と穀物収量の高解像度データから干ばつによる世界の穀物生産被害の地理的分布を明らかにし、1983―2009年の主要4穀物(トウモロコシ、コメ、ダイズ、コムギ)の干ばつ被害は全球栽培面積の約4分の3に及び、総生産被害額は1,660億ドルに上ると推計される。

  • キーワード:干ばつ、グローバル、穀物生産、被害分布図、被害額
  • 担当:農業環境変動研究センター・気候変動対応研究領域・影響予測ユニット
  • 代表連絡先: niaes_manual@ml.affrc.go.jp
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

世界の安定的な穀物生産を脅かす主な原因の一つとして挙げられる干ばつは、今後、気候変動によりその頻度と強度が増すと予測されている。特に開発途上国では、国民総生産に占める農業生産の割合が高い場合が多いことから、これらの国における干ばつ対策は急務である。
国際機関や先進国が干ばつ対策資金を開発途上国などに支援する際には、干ばつによる穀物生産被害やその地理的分布についての科学的な根拠が必要となる。しかしこれまでは、特定の国や地域を対象とする被害報告が多く、過去の干ばつによる穀物生産被害を全球規模で同一の手法で評価した例は見当たらない。
そこで、本研究では、降水量と穀物収量についての50kmメッシュ高解像度データを解析し、干ばつによる世界の穀物生産被害の詳細な地理的分布を初めて明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 本研究では、生育期間の降水量と平年収量に対する収量の変化率との間に統計的な関係式を構築する。また、生育期間の降水量が少なく、かつ収量が低下した場合を干ばつと定義する。
  • 過去27年間(1983-2009年)に1回以上の干ばつ被害を受けた栽培面積は、コムギ1.61億ヘクタール(世界の収穫面積の75%)、トウモロコシ1.24億ヘクタール(82%)、コメ1.02億ヘクタール(62%)、ダイズ0.67億ヘクタール(91%)であり、4穀物の合計では世界の栽培面積の約4分の3に及ぶ。
  • 1回の干ばつあたりの平均収量減少率の地理的分布を示す(図1)。27年間のデータからは、干ばつによる世界の平均収量の低下はで、コムギ8%(1ヘクタールあたり0.29トン)、トウモロコシ7%(0.24トン)、コメ3%(0.13トン)、ダイズ7%(0.15トン)である。メッシュ別の平均収量低下率と収穫面積に国別の消費者価格を乗じて被害額を算出した結果、27年間の総被害額は世界全体で1,660億ドルに上る。
  • メッシュ別の結果を国ごとに集計すると、干ばつによる穀物の収量減少率は、開発途上国のうち乾燥地域に位置する国で特に大きく、一人あたり国民総生産(GDP)の増加に伴って減少率が小さくなることが明らかになった(図2)。一人あたりGDPは技術水準の指標として用いられており、一人あたりGDPの増加と灌漑設備の普及などが連動していると示唆される。
  • 本研究で構築した関係式により、世界のいずれの地域でも降水量データからの穀物の干ばつ被害額を推定できる。

成果の活用面・留意点

  • マップから干ばつに脆弱な地域が特定でき、干ばつに対する国際的な支援・対策の立案に役立てることができる。
  • 気象庁が2019年3月から公表を開始した世界の標準化降水指数(SPI)データを活用し、世界の干ばつによる穀物生産被害についての早期警戒情報を世界の食料機関に提供できるよう、気象研究所と共に更なる研究を進めている。
  • 原材料を海外から輸入している我が国の食品関連企業は干ばつによる世界の穀物生産被害に対して関心が高く、原材料の調達リスクの把握に役立つ。

具体的データ

図1 干ばつによる穀物生産被害の地理的分布,図2 干ばつによる収量減少率と一人当たり国民総生産との関係

その他

  • 予算区分:交付金、競争的資金(環境研究総合)
  • 研究期間:2015~2018年度
  • 研究担当者:金元植、飯泉仁之直、西森基貴
  • 発表論文等:Kim W. et al. (2019) J. App. Meteorol. Climatol. 58:1233-1244