栽植密度の変化に対応可能なダイズの葉面積生長モデル

要約

分枝の生長および各節における個葉の生長を組み合わせて、子実肥大始期までのダイズの葉面積指数を推定するモデルである。葉の相互遮蔽による分枝生長の抑制を考慮することで、栽植密度の変化に対応した葉面積指数の推移が推定可能となり、作物生育モデルの適用範囲の拡大に役立つ。

  • キーワード:葉面積指数、分枝、節数、作物生育モデル、ダイズ
  • 担当:農業環境変動研究センター・気候変動対応研究領域・温暖化適応策ユニット
  • 代表連絡先: niaes_manual@ml.affrc.go.jp
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

群落受光率は乾物生産量を規定する主要な要素であり、作物生育モデルの多くは葉面積指数(LAI)を用いて群落受光率を推定する。特にLAIが小さい生育前半は、LAIの増加に応じて群落受光率が急激に増加するため、LAIの増加過程の適切なモデル化は生育・収量の予測に重要である。ダイズのLAIの推移は栽植密度の影響を強く受け、密植条件ではLAIの増加が早まる。しかし、個体あたりの葉面積でみると、密植条件では分枝の発生および分枝節の増加が抑制されるため、葉面積は減少する。したがって、LAIの栽植密度応答を記述するためには、栽植密度の変化が分枝の生長に及ぼす影響を適切にモデル化する必要がある。そこで本研究では、ダイズ個体における分枝の生長と各節における個葉の生長を組み合わせて、LAIの推移を推定可能な葉面積生長モデルを開発する。

成果の内容・特徴

  • 本モデルでは、主茎節数の増加に対応させて分枝の発生および各分枝における節数の増加を記述する。さらに、それら分枝の生長は葉の相互遮蔽にともなう群落受光率の増加に応じて抑制されるものとする。また、各節における個葉の生長は、主茎および各分枝において上位2節の葉が同時に生長するものとする。そして、節数の増加と個葉の生長を組み合わせて個体あたりの葉面積を算出し、栽植密度を乗じてLAIを算出する(図1)。主茎節数の増加速度および個葉の生長速度は気温の関数で表される。モデルの開発には畝間70cmの栽培データを用いている。
  • 本モデルはモデル作成に利用していない畝間70cmのテストデータにおいて、早晩性が異なる2品種の主茎・分枝別のLAIの推移を推定可能である(図2)。さらに、畝間35cmは畝間70cmに比べて分枝LAIの増加が抑制されて主茎LAIの割合が大きくなるが、本モデルはモデル作成に利用していない畝間35cmの主茎・分枝別のLAIの推移も推定可能であり、栽植密度の変化に対応可能なモデルである(図3)。
  • 分枝の生長を考慮していない既存の葉面積生長モデルでは、栽植密度の変化に対応するため経験的な補正係数が必要である。一方,本モデルではそのような補正係数を用いることなく、LAIの推移を推定可能である。
  • 本モデルは、LAIの推定に加えて節数を推定することができる(図4)。

成果の活用面・留意点

  • 本モデルは、ダイズの生育・収量予測モデルのサブモデルとして、「栽培管理支援システム」における大豆の作付計画支援コンテンツに実装されている。
  • 節数は莢数の決定に寄与するため、本モデルによる節数の推定値は収量予測にも活用できる知見である。
  • 本モデルの推定対象期間は、子実肥大にともなう落葉が生じない子実肥大始期までである。

具体的データ

図1 葉面積生長モデルの概念図,図2 畝間70cmにおける主茎・分枝別のLAIの実測値とモデル推定値の推移,図3 畝間35cmにおける主茎・分枝別のLAIの実測値とモデル推定値の推移,図4 LAI、主茎節数、分枝節数の実測値とモデル推定値との比較

その他

  • 予算区分:交付金、その他外部資金(SIP)
  • 研究期間:2013~2019年度
  • 研究担当者:中野聡史、白岩立彦(京都大学)、本間香貴(東北大学)、Larry Purcell(アーカンソー大学)
  • 発表論文等:Nakano S. et al. (2020) Plant Prod. Sci. 23:247-259