世界の乾燥地域では、農地土壌の炭素量増加で穀物生産の干ばつ被害が低減

要約

乾燥地域を中心とする世界の7割の農地では、農地の土壌に含まれる炭素量が多い場所で、干ばつ被害が抑えられていることを明らかにした。農地管理により土壌炭素を増やすことで、干ばつ年の穀物生産額を最大16%増加すると試算した。

  • キーワード:土壌炭素、干ばつ被害、持続可能な開発目標、温暖化緩和、温暖化適応
  • 担当:農業環境変動研究センター・気候変動対応研究領域・影響予測ユニット
  • 代表連絡先: niaes_manual@ml.affrc.go.jp
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

開発途上国の農業生産の多くは雨水に依存しており、常に干ばつの危険に晒(さら)されている。また、開発途上国では、輸送インフラや貯蔵施設が脆弱なため、生産された食料の大部分が生産地域とその近傍で消費される。ひとたび干ばつによる生産低下が起こると食料安全保障が急激に損なわれる恐れがある。
土壌中の有機炭素(土壌炭素)の増加は、地球温暖化の緩和に加え、土壌肥沃度の向上や土壌の保水力の改善に寄与し、作物の干ばつへの耐性を高める。このため、農地土壌への炭素貯留を通じて温暖化緩和と食料安全保障の達成を目指す「4パーミルイニシアチブ」が2016年から国際的に推進されている。一方で、限られた政策的な介入で大きな効果を得るためには、土壌への炭素貯留がもたらすさまざまな便益(コベネフィット)を考慮し、炭素貯留が複数の効果(例えばSDGsの達成)に同時に寄与する地域を明らかにすることが有効である。
そこで、本研究では、世界の主要穀物の収量と土壌データから、農地土壌に含まれる炭素量と穀物の干ばつ被害との関係を解析し、炭素貯留による干ばつ被害の軽減効果を具体的に推定する。

成果の内容・特徴

  • 農研機構で開発された、55kmメッシュ別の全球作物収量データベースを用い、世界の主要穀物(トウモロコシ、コメ、コムギ、ダイズ)の平年収量と干ばつ年の収量の比較から、干ばつ耐性ギャップを求める。この指標の値が大きいほど、干ばつ耐性を向上できる余地が大きいことを意味する(図1左)。
  • 干ばつ耐性ギャップと土壌炭素量の関係を調べたところ、乾燥地域では表層土壌中の炭素量の増加に伴いギャップが小さくなり、炭素量が4~9キログラム/平方メートル以上ではギャップの値がほぼ一定となった(図2左)。この結果から、土壌中の炭素量がもともと少ない乾燥地域の農地では、干ばつ耐性ギャップが大きく、農地管理により炭素量を増やすことで、干ばつによる収量低下を抑えられる(=干ばつ耐性ギャップを減らせる)と推定された。一方で、湿潤地域では、乾燥地域で見られたような干ばつ耐性ギャップと土壌炭素の関係は見られない(図2右)。
  • 干ばつ被害の軽減効果が見込める最大水準まで土壌炭素量を増やすと仮定すると(図3)、追加貯留される炭素量は世界全体で48.7億トンに上り、世界の平均気温の上昇を0.011°C(不確実性:0.008-0.014°C)抑制できると見積もられる。
  • 干ばつ年の生産額の増加と貯留量の増加の大きさのいずれの観点でも土壌炭素管理が特に効果的な地域は、中東、北アフリカ、東南アジア、オセアニアと示唆される(図4)。

成果の活用面・留意点

  • 本成果は、土壌炭素を増やすような農地管理が、特に土壌炭素に乏しい乾燥地域において、SDGsの複数(2飢餓をゼロに、13気候変動対策、15陸の豊かさを守る)の達成に同時に寄与できることを示しており、国際機関や各国での施策決定に役立つことが期待される。
  • 今後は、ALTENA(アジア農耕地長期連用試験ネットワーク)などを活用し、気候や土壌条件ごとに炭素貯留に適した農地管理技術とその効果について検証を進める。

具体的データ

図1 干ばつ耐性ギャップと表層土壌の炭素量,図2 表層土壌の炭素量と干ばつ耐性ギャップとの関係,図3 干ばつ対策のために農地土壌に炭素貯留を行うと仮定した計算の模式図,図4土壌炭素貯留により見込まれる干ばつ年の穀物生産額の増加と追加貯留が必要な炭素量

その他

  • 予算区分:交付金、競争的資金(環境研究総合)、その他外部資金(助成金)
  • 研究期間:2018~2019年度
  • 研究担当者:飯泉仁之直、和穎朗太
  • 発表論文等:Iizumi T., Wagai R(2019) Sci. Rep. 9:19744 doi:10.1038/s41598-019-55835-y.