生分解性プラスチック製マルチの土壌中での分解を葉面酵母の酵素塗布処理で加速させる

要約

生分解性プラスチック製マルチ(生プラマルチ)フィルムの土壌中での分解をより早くさせるためには、葉面常在菌のエステラーゼPaEの塗布処理が効果的である。生プラマルチ埋設後は、土壌中の真菌相が変化するが、PaE処理フィルム埋設土壌では変化が早く起こり、回復も早い。

  • キーワード:
    生分解性プラスチック製農業用マルチフィルム、エステラーゼ、酵母、PCR-DGGE、土壌微生物
  • 担当:農業環境変動研究センター・物質循環研究領域・循環機能利用ユニット
  • 代表連絡先: niaes_manual@ml.affrc.go.jp
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

プラスチック製マルチフィルムは、ほとんどの野菜の栽培で収量を高める効果がある。しかし、生分解しないポリエチレン製マルチは、使用後の回収が重労働である上、土で汚れたプラスチックは、産業廃棄物としての処理が難しい。一方、生プラマルチは、使用後、速やかに畑土にすき込んで分解を促す処理が認められており、省力化とプラスチックゴミ削減効果がある。しかし、生プラマルチは環境によって分解速度が異なるため、その分解速度制御技術の開発が求められている。
既に農研機構では、市販生プラフィルムをPaE溶液に浸すと、形が無くなるまで分解されることを示している。本研究では、圃場に展張した生プラマルチ表面に酵素を塗布処理し、土に鋤きこむ作業工程を想定し、実験室規模で酵素処理したフィルムを土壌に埋め、土の中でのフィルムの形状変化や、フィルム分解に関わる土壌真菌相の変化を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 市販の生プラフィルムは、表面に酵素液を塗布して一晩おくと、強度が低下する(図1)。
  • 生プラフィルムに酵素を塗布処理し、翌日これを蓋つきタッパーに入れた畑土壌中に埋め、保湿しながら25°Cで静置し、1週間ごとに掘り出して形状を調べると、酵素処理したフィルムは3週間で回収できなくなるが、酵素を処理しないフィルムは、6週間後も断片が残る(図2)。
  • 土壌DNAを用いたPCR-DGGEバンドパターンに基づく解析を行うと、酵素処理した生プラフィルム埋設土壌では、酵素処理していない生プラフィルム埋設土壌よりも土壌真菌相の変化が早く、24週目には元の土壌の菌相に回復することが分かる(図3)。この結果は、フィルム分解の進行が早く24週以内に分解が終了していることを示す。
  • PaEを処理した生プラフィルムは、土壌に鋤きこんだ後の崩壊が加速される。フィルムが回収できない程度まで分解された後、土壌真菌相が元の土の状態に戻ることから、生プラフィルム由来の有機物は、PaE処理により土壌中で分解が早くなると考えられる。

成果の活用面・留意点

  • 生プラマルチの使用は、気象条件や土壌の性質に依存するために分解速度の予測が難しく、埋設後に速やかに分解しなければ、フィルム断片が後作の生育へ影響を与える可能性や、露出して飛散する懸念がある。この技術を用いれば、埋設後に残ったフィルム断片による問題が減る可能性が期待できる。
  • 本研究で用いた生分解性プラスチック分解酵素(PaE)はまだ市販されていない。実用化に向けた量産化技術の確立と市場調査を進めている。

具体的データ

図1 酵素によるフィルム強度の低下,図2 酵素処理の有無による土壌中でのフィルム分解速度の違い,図3 PCR-DGGE法で得られたバンドパターンから解析した土壌真菌相の遷移

その他

  • 予算区分:交付金、競争的資金(イノベ創出強化)
  • 研究期間:2012~2019年度
  • 研究担当者:北本宏子、山下結香、植田浩一、小板橋基夫
  • 発表論文等:Sameshima-Yamashita Y. et al. (2019) J. Biosci. Bioeng. 127:93-98