セイヨウミツバチの尻振りダンス自動解読システム

要約

セイヨウミツバチの巣内を撮影したビデオ動画を用いて、尻振りダンスを自動解読し、餌として利用されている花の場所を効率よく推定する技術である。これまで手動で行われてきた解読作業を飛躍的に迅速化させ、セイヨウミツバチがどこで蜜や花粉を集めているのかを効率よく把握するのに役立つ。

  • キーワード:セイヨウミツバチ、飼育環境、花資源、花粉交配、8の字ダンス
  • 担当:農業環境変動研究センター・生物多様性研究領域・生態系サービス評価ユニット
  • 代表連絡先: niaes_manual@ml.affrc.go.jp
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

セイヨウミツバチは蜂蜜などの生産だけではなく、施設園芸作物などの花粉交配にも広く用いられており、農業生産に重要な役割を果たしている。しかし、蜜源となる植物の栽培面積減少や土地利用・農地管理の変化の影響を受け、その飼育が年々難しくなっており、養蜂場の周辺に餌源を確保するなど飼育環境の改善が求められている。ミツバチの採餌範囲を把握することが飼育環境の管理上重要で、それにはセイヨウミツバチの情報伝達手段である「尻振り(8の字)ダンス」を利用することができる。ただし、ダンス情報の解読には人による観察が不可欠で、巣内を撮影したビデオ動画からダンスしている働きバチをみつけ、餌場の情報を示すダンスの方向と継続時間を計測するには長時間の作業が必要である。そのため、観察できる時間や巣箱の数が限られ、多くの養蜂場を対象に、採餌範囲の日変化や季節変化をとらえることは困難であった。
そこで本研究では、現場での実用化を重視し、一般的なビデオカメラを用いて野外で巣内を撮影した動画から尻振りダンスを自動で解読する技術を開発する。

成果の内容・特徴

  • 尻振りダンスをするミツバチを撮影したビデオ動画を用いて、粒子画像流速測定法による画像解析から、自動でダンスを抽出・解読する手法を開発した。
  • 開発した手法は、一般的なビデオカメラを用いて撮影したビデオ動画を解読できる。地上波デジタル放送と同程度の、HD解像度(1920×1080ピクセル)、約30フレーム/秒が推奨である。具体的な解析手法は図1に示したとおりである。
  • 手作業では30分間の動画を解読するのに数日を要していたが、本プログラムを用いることで、解読作業のほとんどをコンピューターに任せることができ、大幅な効率化が図れる。
  • 開発した手法は、様々な養蜂場での採餌範囲の推定に使用できる。動画の撮影には側面(一面のみ)をアクリル板にした巣箱が必要だが、この観察巣箱は、通常、養蜂で使われるものを少しアレンジするだけで作成することができ、また観察の時以外は巣箱を通常の形に戻すことができる。
  • 開発した手法を用いて採餌場所の密度推定マップを作成し、その精度を手動で読み取ったものと比較したところ、約70%程度の範囲が一致した(図2)。
  • 今回、ほぼ同時刻に数km離れた3つの巣箱で撮影した30分間の動画を用いた検証では、それぞれの巣箱から利用している餌場の方向や距離を特定することができ、巣箱ごとに利用している餌場が異なっていることがわかった。

成果の活用面・留意点

  • 今回開発した技術を用いれば、ミツバチの尻振りダンス解読時間を飛躍的に短縮できる。その結果、採餌範囲の時間、日、季節変化(例えば、季節によってはダンスが非常に少ない=魅力的な餌がないこと)を効率よく解析することが可能となる。
  • 採餌場所として主に利用している環境を的確に把握することで、例えば、餌場が遠い、農地の近くが餌場になっている、といった蜂群の育成環境の評価にも利用できるようになる。
  • こうした情報をもとに、必要な時期に餌源を確保するなどの環境管理を行うことで、 花粉交配用ミツバチの増殖や国産蜂蜜の増産に貢献できる。

具体的データ

図1 尻振りダンス自動解読の仕組み,図2 自動および手動解読による採餌範囲推定結果

その他

  • 予算区分:その他外部資金(28補正「経営体プロ」)
  • 研究期間:2017~2018年度
  • 研究担当者:大久保悟、日下石碧、田中千聡(筑波大)、木村澄、芳山三喜雄、森本信生
  • 発表論文等:
    • Okubo S. et al. (2019) Apidologie 50:243-252
    • 大久保(2019)畜産技術、774:2-6
    • 大久保(2019)職務作成プログラム「セイヨウミツバチの尻振りダンス自動解読システム」、機構-X09