有機・農薬節減栽培の水田では多くの動植物が生息できる

要約

有機・農薬節減栽培の水田では、慣行栽培よりも多くの動植物(植物、無脊椎動物、両生類および鳥類)が生息できる。本成果により、自然環境への影響の軽減や、農産物の付加価値向上およびブランド化に貢献することが期待できる。

  • キーワード:生物多様性、農薬節減栽培、有機栽培、環境保全型農業、持続可能性
  • 担当:農業環境変動研究センター・生物多様性研究領域・生物多様性変動ユニット
  • 代表連絡先: niaes_manual@ml.affrc.go.jp
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

農地は、食糧生産の場としての価値だけでなく、生物多様性保全の場としての価値を有する。有機栽培や農薬節減栽培などの環境保全型農業は、生物多様性に配慮した持続的な農業生産を実現するための手段の一つとして、注目を集めている。しかし、その効果を科学的に検証する研究は一地域の事例研究にとどまっており、広域的な水田の生物多様性の調査に基づく検証は実施されていない。
そこで本研究では、有機栽培または農薬節減栽培を行う水田と、行わない水田(慣行栽培の水田)の両方で生き物の調査を全国規模で行い、種数と個体数を比較する。これにより、有機・農薬節減栽培の生物多様性保全効果を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 全国各地(北は山形県から南は福岡県まで)の延べ1000以上の水田(ほ場)を対象として、2013年~2015年の三年間に実施した植物、アシナガグモ属(クモ)、アカネ属(トンボ)、カエル類、魚類、および鳥類の種数・個体数の調査結果である。
  • 農薬節減栽培の水田では、慣行栽培の水田と比較して、絶滅のおそれのある植物の種数およびアシナガグモ属の個体数が多い(図1)。さらに有機栽培の水田では、これらの生物に加えて、アカネ属およびトノサマガエル属(カエル)の個体数も多い。これらの結果は、有機・農薬節減栽培が多くの生物の保全に効果的であることを示す。
  • 個別の管理法が与える影響は、生物群によって大きく異なる(図1)。特にニホンアマガエルとドジョウ科の個体数は、有機・農薬節減栽培かどうかよりも、畦畔の植生高や輪作などの管理法と関連する。この結果は、保全対象種によって効果的な取り組みが異なることを示す。
  • 有機栽培の水田面積が多い地域(半径200mの範囲)ほど、サギ類などの水鳥類の種数と個体数が多い(図2)。この結果は、鳥類のように広範囲を移動する生物の保全には、1枚の水田よりも、地域や生産グループなどによる広域的な取り組みが効果的であることを示唆する。

成果の活用面・留意点

  • 本成果は、これまで農業者や自治体が取り組んできた有機・農薬節減栽培や特定の管理法が、生物多様性の保全に有効な農業生産方式であることを示す強力な科学的・客観的証拠となる。
  • これらの栽培法で保全される生物多様性を、公開中の「鳥類に優しい水田がわかる生物多様性の調査・評価マニュアル」を活用して適切に評価することで、農産物の付加価値のさらなる向上やブランド化に貢献することが期待される。
  • 今後、こうした生物多様性がもたらす生態系サービスの実態を解明し、その恩恵を活用する新たな農業生産方式を実現するための研究を推進する必要がある。

具体的データ

図1 本研究結果の要約,図2 水鳥類の種数・個体数と有機栽培水田の面積率の関係

その他

  • 予算区分:交付金、委託プロ(収益力向上)、競争的資金(科研費)
  • 研究期間:2013~2019年度
  • 研究担当者:
    片山直樹、馬場友希、田中幸一、楠本良延、大久保悟、池田浩明、長田穣(東北大)、益子美由希(国総研)、夏原由博(名古屋大)
  • 発表論文等: