適期の刈取りで外来牧草の草地外への種子逸出は減少する

要約

北海道では、年3回の適期(出穂期)刈りを行うことで、産業管理外来種チモシーおよびオーチャードグラスの草地外への逸出種子数が大幅に減少する。適期刈りの徹底は、自然公園と採草地が隣接する地域等で、公園区域への外来牧草の侵入を防止・軽減するための有効な方策となる。

  • キーワード:外来牧草、産業管理外来種、生物多様性、採草地
  • 担当:農業環境変動研究センター・生物多様性研究領域・外来生物影響評価ユニット
  • 代表連絡先: niaes_manual@ml.affrc.go.jp
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

寒地型外来牧草のチモシーとオーチャードグラスは、北海道をはじめとする寒冷地における基幹牧草としてわが国の飼料供給に大きく貢献している。しかしその一方で、両種は、自然環境中で繁茂して在来種と競合するなどの生態系被害を引き起こすことがある。自然保護区等の生物多様性保全上特に重要なエリアへの侵入を防止・軽減するため、環境省と農林水産省は、両種を「適切な管理が必要な産業上重要な外来種(産業管理外来種)」に指定し、利用者に対して種子の逸出防止管理の実施を指導している。採草地において刈取り作業を適期(出穂期)に実施することは、飼料の栄養価を向上させるだけでなく、外来牧草の種子逸出を防止するためにも有効と考えられるが、適期刈取りの外来種管理上の意義は生産現場では認識されておらず、出穂・結実後も刈り取られずに放置されている例が散見される。本研究では、適期刈取りを実施する場合と実施しない場合で採草地から逸出する2種の種子数を比較し、適期刈取りの種子逸出防止に対する有効性を実証するとともに、逸出した種子の最大到達距離を推定し、刈取りせずに放置した場合の種子の逸出範囲を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • チモシーおよびオーチャードグラス(図1A)が生育する採草地に、年3回刈取り区・無刈取り区を設置する。各処理区において、採草地からの距離が0、1、2、5、10mの各地点にシードトラップ(トラップ面積706.5cm2)を設置し(図1B、C)、採草地から風によって草地外に運ばれる両種の種子を定期的に採取して1年間の逸出種子数を把握する。また、各地点でトラップされた種子数をもとに、種子の到達確率が1%以下となる距離(99パーセンタイル値、種子の最大到達距離の指標となる)を種ごとに推定する。
  • チモシーおよびオーチャードグラスの逸出種子数は、刈取りを行わない場合、草地内での被度が増すにつれて増加し、草地から1mの地点でトラップされる種子数はチモシーでは113個/m2(8個/トラップ、被度30%時)、オーチャードグラスでは127個/m2(8個/トラップ、被度70%時)に達する。一方、同一被度条件で刈取りを行う場合、チモシーの逸出種子数は0に、オーチャードグラスでは無刈取り区の1/3(42個/m2、3個/トラップ)に低下し(図2)、被度が高くなっても逸出はほとんど生じない。
  • 種子の到達確率が1%以下となる距離は、護頴の形態の違い等を反映して種間で異なり、チモシーでは草地から2.31m、オーチャードグラスでは草地から6.95mと推定される(図3)。本範囲内に水路や道路がある場合は、草地から逸出した種子が水流や車両によってより遠くまで運ばれ、侵入域が急速に拡大することもありえる。

成果の活用面・留意点

  • 本成果は、北海道内の自然公園と採草地が隣接する地域等において、採草地における適期刈取りの徹底が外来牧草種子の逸出を抑制し、公園区域への牧草の侵入を軽減するために有効であることを生産者に指導する際に活用できる。また、行政部局が当該地域における適期刈取りの実践を支援する施策を立案するための根拠としても活用できる。
  • 本試験では、札幌市羊ヶ丘の北海道農業研究センター試験草地において、ディスクモアで出穂期に刈取りを行い、1番草のみを収穫し、2番草以降は刈取り後草地内に残した。刈取りの方法や間隔によって、逸出種子数は異なる可能性がある。
  • 本試験期間(2017年5月~10月)中の各月最大瞬間風速は、11.8m/s~18.3m/sである。風速条件やその他の環境条件によって、種子の到達距離の推定値は変化する可能性がある。

具体的データ

図1  試験区の状況,図2. 刈取り区および無刈取り区から1mの距離に設置したトラップあたりの逸出種子数と被度との関係,図3.確率密度関数を用いて求められた種子の到達確率と採草地からの距離との関係

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2017年度
  • 研究担当者:江川知花、小路敦、芝池博幸
  • 発表論文等:Egawa C. et al. (2019) Invasive Plant Sci Manag. 12:133-141