農薬に対する感受性の成長に伴う変化を評価するコガタシマトビケラ成長段階別毒性試験法

要約

水生昆虫の一種コガタシマトビケラを用いて成長段階(卵~幼虫)別に農薬の急性毒性を評価する試験法である。農薬の種類によっては感受性の高い成長段階が異なるので、より適切な生態影響を評価することができる。

  • キーワード:農薬、水生昆虫、卵、幼虫、生態影響
  • 担当:農業環境変動研究センター・生物多様性研究領域・化学物質影響評価ユニット
  • 代表連絡先: niaes_manual@ml.affrc.go.jp
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

現行の水生生物(ミジンコ、ユスリカ幼虫など)を用いた生態影響試験では、試験個体の入手しやすさ、試験操作上の取り扱いやすさ等の制限から、特定の成長段階・個体サイズのみで試験が実施されている。これらの成長段階・個体サイズは一般化学物質に対する感受性が高い傾向にあり、比較的安全側にたったリスク評価を行っているとされている。しかし、農薬のような特殊な作用機構をもつ化学物質については、成長に伴う感受性の変化に関する知見が少ない。したがって、既存の生態影響試験が必ずしも高感受性の成長段階で実施されているとは限らず、その生態リスクが過小評価される可能性がある。農耕地から河川を通して水域生態系に流出することが多い農薬について、より適切な生態リスクを評価するためには、河川に生息する水生生物種を用いた成長段階別の毒性試験法が求められる。
そこで本研究では、水生昆虫のコガタシマトビケラを試験生物とし成長段階別の毒性試験法を開発する。さらに、殺虫剤に対する感受性について成長に伴う変化を評価する。

成果の内容・特徴

  • コガタシマトビケラは上・中流域の河川に生息する在来種で、個体数が多く生態学的に重要な水生昆虫である。その生活史の大部分(卵から蛹まで)を河川水中で過ごす(図1)。本種は室内飼育法が確立されており、毒性試験用に各成長段階の試験個体を安定的に供給することができる。
  • 成長段階別の毒性試験法は、主要な水中生活期である卵および幼虫(1齢~5齢)を対象としている。この試験法では、試験個体のストレスを軽減するために、本種の生息環境を考慮して試験水を攪拌することにより流水環境を擬似的に再現している(表1)。また、若齢期の正の走光性を利用して水面への浮上を防止する光条件の設定など、各成長段階の特性にあわせた試験条件を設定してある。
  • 農薬の生態影響を評価する本毒性試験法のエンドポイントは、農薬の作用機構に関わらず「ふ化阻害」と「幼虫の不動化」とする(表1)。河川に生息する本種にとって、流水に対応できなくなる「幼虫の不動化」は生態学的な死亡を意味する。
  • 作用機作が異なる3種の殺虫剤(キチン生合成阻害剤、ネオニコチノイド系殺虫剤、ジアミド系殺虫剤)を用いた毒性試験を実施したところ、最も感受性が高い成長段階は殺虫剤の種類によって異なることが判明している(図2)。殺虫剤によっては、成長にともなう感受性差が290倍以上になる場合がある(図2A)。成長段階別の毒性試験法を活用することにより、成長に伴う感受性の変化を適切に把握でき、特定の成長段階のみで実施される現行の生態影響試験では過小評価される可能性がある農薬のリスクを適切に評価することができる。

成果の活用面・留意点

  • 成長段階別毒性試験法は、個体の成長という時間軸の観点から感受性のバラツキを把握する新しいコンセプトの生態影響評価法であり、本試験法を活用して生態毒性に関する新しい知見を集積することにより、今後の生態リスク評価の高度化に貢献すると期待される。
  • 卵を用いた毒性試験法は、水生節足動物を用いた既存の毒性試験法では急性毒性が現れないことがある昆虫成長制御剤などの殺虫剤の生態影響評価に有用である。
  • 卵および1齢幼虫を用いた毒性試験法については、3機関においてリングテストを実施しており、試験法の妥当性を検証済みである。
  • 農業環境変動研究センターでは本種の室内飼育系統を維持しており、卵を研究試料提供している。

具体的データ

図1 コガタシマトビケラの生活史,表1 成長段階別毒性試験法の試験条件,図2 成長に伴う感受性の変動

その他

  • 予算区分:
    交付金、競争的資金(環境研究総合)、その他外部資金(環境省・農薬水域生態リスクの新たな評価手法確立事業(調査研究)業務)
  • 研究期間:2013~2018年度
  • 研究担当者:横山淳史
  • 発表論文等: