長期的な施肥管理の影響を評価するためのSoil Quality影響評価係数

要約

有機物含量や養分の豊否などの土壌機能を単一指標で示すSoil Quality指標(SQI)を用いて、土壌種類、肥料種類および連用期間別のSQ影響評価係数を算出する。これにより、肥料種類や施肥方法が土壌の質に与える影響を考慮した総合評価の実施が可能となる。

  • キーワード:環境影響評価、LCA、土壌の質、肥料種類、連用期間、水田土壌
  • 担当:農業環境変動研究センター・環境情報基盤研究領域・総合評価ユニット
  • 代表連絡先: niaes_manual@ml.affrc.go.jp
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

有機農業や特別栽培などの環境影響を評価する際には、地球温暖化や富栄養化等では捉えられない土壌機能の変化を考慮することが望まれる。しかしながら、総合的な観点で土壌機能の変化を評価することはほとんど行われていない。さらに、既存研究では、土地利用類型(農地、草地、森林など)間の違いに注目するため、農業生産における管理方法がもたらす影響の評価は困難である。
本研究では、有機物含量や養分の豊否などの土壌機能を「土壌の質(Soil Quality)」としてとらえ、これを定量化し、単一指標で示すSQIの算出手法を開発する。この手法を土壌環境基礎調査基準点調査データ(1979-1998)に適用することにより、土壌種類、肥料種類および連用期間の違いが考慮できるSQ影響評価係数を導出し、LCAによる環境影響評価に適用することを目指す(図1)。

成果の内容・特徴

  • 水田土壌のSQIは、有機物含量、湛水透水性、酸化還元性、自然肥沃度、養分の豊否の5つの土壌機能を用いて算出し(図2)、0~1(1が最も高い土壌の質を示す)の範囲で定量化される。有機物含量を除く4つの土壌機能は地力保全基本調査における生産力可能性分級基準の要因項目に基づいて指標化を行う。施肥、有機物の利用など様々な農地管理によって土壌特性が変化すると、算出されるSQIも変化するため、農地管理法の違いによって生じるSQIの変化を土壌の質の変化と考えることができる。
  • 土壌環境基礎調査基準点調査データ(1979-1998)を利用して、圃場ごとに年次ごとのSQIを算出したうえで、統計モデルにより、土壌種類と肥料種類(化学肥料単用、化学肥料+稲わら、化学肥料+稲わら堆肥)の組合せ別のSQIを推計する(図3、以後SQIeという)。推計された結果は黒ボク土で高く、グライ低地土で低い。肥料種類別のSQIeは、「化学肥料単用」に比べて、「化学肥料+稲わら」では黒ボク土および灰色低地土で有意に増加する;「化学肥料+稲わら堆肥」では灰色低地土およびグライ低地土で有意に増加する。これらのSQIe増加量は、連用期間が長いほど大きい。以上の結果は、「土づくり」で推奨される有機物の利用等と整合する結果であり、SQIeが土壌の質の評価に利用可能であると判断できる。
  • SQIeをLCAへ利用するために、土壌機能の最高値に対する現状SQIeの差分(1-SQIe)をSQ影響評価係数(無次元)として定義する(表1)。算定される影響評価係数を用いることにより、施肥管理方法が土壌種類、肥料種類および連用期間の組合せ別に土壌の質にもたらす影響を評価することが可能となる。

成果の活用面・留意点

  • この成果は、異なる施肥方法を用いた複数の水稲生産システムの環境影響を比較評価する場面で、土壌の質への影響も含めたより包括的な総合評価の実施に貢献できる。
  • 有機質肥料単用に関する情報は、基準点調査データには含まれないため、有機質肥料単用の圃場データの収集と係数算定が別途求められる。
  • 土壌種類、肥料種類の組み合わせごとにSQIeの年次推移を予測するために、一般化線形混合モデル(二項分布、ロジット関数)を構築している。統計解析では、データ欠損のため、全122圃場(47都道府県)中の57圃場(29都道府県)の土壌データを使用している。

具体的データ

図1 SQ影響評価係数の開発に通じて環境配慮型管理技術の比較LCAに土壌の質への影響が評価できるようになる,図2 SQIの評価枠組み(水田土壌),図3 土壌種類と肥料種類の組合せ別に推計されたSQI,表1 土壌種類、肥料種類および連用期間の組合せ別のSQ影響評価係数

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2017~2018年度
  • 研究担当者:湯龍龍、林清忠、大東健太郎、志村もと子、神山和則
  • 発表論文等:Tang L. et al. (2019) J. Cleaner Production
    doi.org/10.1016/j.jclepro.2019.117890