水稲の収量や品質に影響を与える夏季の高温指標の全国分布の長期データ
要約
本データは、1978年以降の毎年の「水稲の高温被害に関わる夏季の高温指標」を全国レベルで整理したものである。「出穂後20日間の26°Cを上回る気温の積算値」や「出穂日前後7日間平均の日中の推定穂温」の全国分布などが含まれ、水稲の高温対策を策定する上での基礎資料となる。
- キーワード:水稲高温被害、気候変動適応策、コメ品質低下、ヒートドース、推定穂温
- 担当:農業環境変動研究センター・気候変動対応研究領域・作物温暖化応答ユニット
- 代表連絡先:
- 分類:普及成果情報
背景・ねらい
日本の主食であるコメの収量や品質は、夏の気象の影響を強く受けている。2000年以前は夏季の低温・天候不順による北日本を中心とした収量低下が水稲の主要な気象被害の要因であったが、2000年以降は盛夏期の異常高温による品質低下(白未熟粒の発生)が西日本を中心に増加し、近年における主要な気象被害の要因となっている。地球温暖化の進行によって今後はさらなる気温上昇が見込まれ、高温不稔(高温による受精障害)による収量の低下も懸念されている。夏季の気象条件がコメの収量や品質に与える影響を正しく理解し、効果的な気候変動適応策を策定するためには、水稲の高温障害の原因となる出穂・登熟期間における異常高温の実態を詳細に把握すると共に、一般気象データでは得られない穂温などの微気象環境も必要となる。
ここでは群落熱収支モデルも活用して、水稲の高温障害に関わる夏季の高温指標の全国分布を年度ごとに取りまとめ、1978年以降における年々の長期データとして公表する。
成果の内容・特徴
- 各年度における水稲の高温被害に関わる夏季の気象指標は、「****年夏季の農業気象 (高温に関する指標)」というタイトルのwebサイトから、毎年3月頃に公表される(図1)。
https://www.naro.go.jp/project/research_activities/laboratory/niaes/134567.html
- 上記のwebサイトでは、当該年度の夏季の気象概況の解説や、1978年度から該当年度までの猛暑日と熱帯夜の記録回数の推移(図2)と共に、出穂~登熟前期のヒートドースHD_m26(出穂後20日間の26°Cを上回る気温の積算値)や出穂期における日中の推定穂温(出穂前後7日間平均、気象データと群落熱収支モデルを用いた推定値)などの高温指標の全国分布(空間解像度:1km、図3、4)が公開される。1978年以降の毎年の高温指標の全国分布も、本webサイトから入手することができる。
- ヒートドースHD_m26は白未熟粒の発生頻度との間に高い相関(定量的な関係式)が示されていて、コメ品質低下の指標として利用できる。また日中の推定穂温は、今後増大が懸念される高温不稔(高温による出穂期の受精障害)と有意な正の相関が認められている。
普及のための参考情報
- 普及対象:コメ生産者、自治体の農業部門および試験研究・普及指導機関。
- 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:全国
- その他:
現在、ヒートドースHD_m26や推定穂温の全国分布を準リアルタイムで算定し、画像データと数値データの両者を作成するシステムを構築中である。これらシステムの活用法について検討し、その際必要に応じてSOPを作成する予定である。
具体的データ

その他
- 予算区分:
交付金、委託プロ(温暖化適応・異常気象対応)、競争的資金(環境研究総合)、その他外部資金(気候変動適応推進、地域適応コンソーシアム事業、科研費)
- 研究期間:2010~2020年度
- 研究担当者:桑形恒男、石郷岡康史、吉本真由美、長谷川利拡、西森基貴、滝本貴弘
- 発表論文等:
- 西森ら(2020)生物と気象、20:1-8
- Ishigooka Y. et al. (2017) J. Agric. Meteorol. 73:156-173
- Ishigooka Y. et al. (2011) J. Agric. Meteorol. 67:209-224
- Yoshimoto M. et al. (2011) J. Agric. Meteorol. 67:233-247