放射の影響を除去できる新原理のセンサ「三球温度計」

要約

大きさの異なる3つの小さな球の温度から、放射の影響を計算で除去して正確な気温を求める新しい原理の温度計を開発した。本温度計を用いることで、野外でも百葉箱や日よけを使わずに信頼性の高い気温データを取得することができ、データに基づいた農作物の管理などに活用できる。

  • キーワード:温度、センサ、熱収支、微気象、ICT
  • 担当:農業環境変動研究センター・気候変動研究領域・温暖化適応策ユニット
  • 代表連絡先:
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

気温は、地球上の多くの生物に影響を及ぼす最も基礎的な物理量のひとつであり、農業においても作物栽培や温室、畜舎の管理の指標となる基本的な情報である。近年、データ活用型農業への取組が進んでおり、様々な場面において気温測定のニーズが高まっている。通常、野外での気温測定には、放射の影響を避けるために百葉箱や通風筒(日よけと通気ファンを組み合わせた装置)が用いられる。ところが、農地のスペースあるいは電源の制約からそれらを使用できない場合、放射の影響を適切に除去できず、気温の測定値に大きな誤差が生じてしまう。そこで、野外での簡便な気温測定のため、放射の影響を計算で除去することで正確に気温を求める新しい原理の温度計を開発する。

成果の内容・特徴

  • 開発した温度計の原理は、球体と大気の熱交換および球表面の熱収支の理論に基づく。これらの理論から、球形のセンサで測定された温度と実際の気温との差が球の直径の累乗に比例する性質が導かれる。この性質を利用することで、2つ以上の異なる大きさの球形のセンサの温度から、直線回帰によって真の気温を求めることができる(多球温度計の原理)。(図1)
  • 三球温度計は、球の数が3つでその直径の比率が1:4:16となる場合に上記の原理から得られる以下の簡単な式によって気温を求める。
    Ta= T1 + 1/2(T2 - T3)
    Taは気温、T1は最小の球の温度、T2は中間の球の温度、T3は最大の球の温度である。球の大きさは直径0.25mm、1mm、4mmで、野外実験から得られた最適な組み合わせに基づいている。(表1)
  • 三球温度計の構造は、上記3つの球形センサを同一円周上に等間隔で配置している。センサには安価な熱電対とステンレス球を用いており、伝導熱の影響を低減するため、クランク形状の保護管を利用して3つのセンサをグリップで束ねている。そのため、センサ部の折り畳みができて可搬性に優れており、電源も要らないため作物の生育期間中のデータ取得などに適している。(図2)
  • 野外実験から得られた三球温度計の精度は平均で0.2°C以内(器差を含まない値)である。従来の温度計に日よけを付けずに設置すると、昼間に日射の影響を受けて気温を2°Cほど実際より高く評価するが、三球温度計ではそのような誤差がみられず、-3°Cから34°Cまでの広い温度範囲にわたって計測値が基準温度計の値と一致することが確認されている。(図3)

普及のための参考情報

  • 普及対象:試験研究機関、教育機関、普及指導機関、生産者
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:全国・204台(2020年現在)
  • その他:
    本温度計は、まずは農業試験場や大学等で試験研究に利用される予定だが、将来的には量産化や改良を通じて、作物の栽培管理や温室・畜舎の管理など農業分野で広く活用されることを目指す。また、商用電源が不要なため、湿地や山地あるいは自宅の庭や学校など、様々な場所で気温測定が容易になり、農業以外の分野での活用も期待される。

具体的データ

図1 多球温度計の原理のイメージ,表1 様々な大きさの球の組み合わせによる多球温度計の精度の違い,図2 開発した温度計の図面および計測の様子(a)各センサ部分の図面、(b)温度計全体の図面、(c)ほ場における計測の様子,図3 日よけを付けない場合の三球温度計と従来の温度計による気温の測定値の比較

その他

  • 予算区分:交付金、競争的資金(科研費)
  • 研究期間:2015~2020年度
  • 研究担当者:丸山篤志、中川博視、木村建介
  • 発表論文等:
    • 丸山、中川「温度測定装置及び温度測定方法」特許第6112518号(2017年4月12日)
    • Maruyama A. et al. (2020) Agricultural and Forest Meteorology 292:108028