貯水地の落水を中心とする、特定外来生物カワヒバリガイの管理手順

要約

貯水池の落水管理を一定期間行うことにより、貯水池に拡がるカワヒバリガイを駆除する簡便で効果的な手法である。カワヒバリガイが発生した貯水池は、周辺への幼生の供給場所となるが、この手法により、次年度に発生する幼生数を減らし、水利施設の通水障害等への対策技術となる。

  • キーワード:カワヒバリガイ、水利施設、貯水池、特定外来生物、落水
  • 担当:農業環境変動研究センター・生物多様性研究領域・外来生物影響評価ユニット
  • 代表連絡先:
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

カワヒバリガイは、淡水に生息する中国・朝鮮半島産の二枚貝で、日本では1992年に琵琶湖で発見され、その後関西、東海から関東地方へと生息域が拡大している。カワヒバリガイは、生態系に悪影響を及ぼすとともに水利施設に大量に発生し通水障害や悪臭などの被害を与えており、環境省の定める「特定外来生物」に指定されている(図1)。
カワヒバリガイは、浮遊幼生の状態で水田等へ供給する水利施設を介して、その分布を拡大していることがわかってきた(図2)。特に貯水池にカワヒバリガイが大量に発生した場合、貯水池で生まれた幼生が水路等を介して新たな地域へ拡大する懸念がある。そこで、貯水池における成貝の生息数を抑制し、翌年の大規模な幼生の発生を抑えるため、貯水池における水位を落とし、一定期間乾燥にさらすことで、カワヒバリガイを死滅させ、その密度を低減することを目的とする。

成果の内容・特徴

  • 貯水池の落水はいわゆる「かい堀り」として、ため池の維持管理のために行われてきた手法であり、実施の心理的ハードルも低く、特別な装置や機器を必要とせず、実施コストが低いこと、非灌漑期に落水を行えば、貯水池の利用頻度が低く、営農への影響が少ないことが挙げられる。
  • カワヒバリガイの生息した水源を利用している貯水池は、カワヒバリガイが侵入・定着している可能性が高い。貯水池へのカワヒバリガイの侵入は、水位を低くした条件での目視調査や、浮きに付着基質(塩ビ管やロープなど)を装着した付着トラップを用いて検知することが可能である。付着トラップへのカワヒバリガイ付着数は幼生密度と高い相関がある(図3)。
  • 茨城県つくば市、桜川市、古河市の貯水池で落水期間と貯水池壁面や岩表面に付着するカワヒバリガイの生存率の関係を調べた結果、十分な乾燥状態が保たれた条件では落水開始から15日目以降、生存個体はみられなくなった(図4)。カワヒバリガイの発生した貯水池の落水により、翌年の幼生密度の減少や、周辺地域への拡散の抑制などの効果が確認された。
  • 水源にカワヒバリガイ生息している場合、水源からの新たな幼生の流入は毎年継続して生じると考えられる。そのため、貯水池での対策は可能な限り毎年実施し、新たに発生した個体を翌年に持ち越さないようすることが望ましい。

普及のための参考情報

  • 普及対象:公設試・土地改良区など
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:カワヒバリガイの発生が見られる地域の水利施設
  • その他:
    本成果の内容に加え、落水を行ううえで留意すべき情報等を追記したうえで、カワヒバリガイ対策を目的とした貯水池管理(落水)手順書のSOPとしてとりまとめを予定している。

具体的データ

図1 水利施設に発生したカワヒバリガイ,図2 霞ヶ浦周辺のカワヒバリガイの分布と水利施設の関係。a: 分布図、b: 模式図。,図3 カワヒバリガイ付着トラップ(右)への付着個体数と幼生密度の関係,図4 茨城県つくば市における、貯水池(左上:落水前、左下:落水時)の落水期間(11月)と壁面に付着するカワヒバリガイの生存率の関係(右)。

その他

  • 予算区分:交付金、委託プロ(侵略的外来種)
  • 研究期間:2017~2020年度
  • 研究担当者:伊藤健二、芝池博幸
  • 発表論文等:
    • 伊藤健二 (2016) 保全生態学研究、21: 67-76
    • Ito K. et al. (2018) Plankton and Benthos Research 13:104-115
    • Ito K. and Shibaike H. (2021) Plankton and Benthos Research 16(2):100-108