イネによるヒ素とケイ素の蓄積は第I節位を分岐点に止葉と穂で異なる

要約

イネ地上部のヒ素とケイ素の蓄積は、出穂2週後頃までに急激に生じる類似のパターンを示す。一方、止葉、穂、第I節位への分配、蓄積パターンは両元素で異なり、ヒ素は第I節位に留まることで穂への輸送が制限される。本成果は、既往成果を実圃場で詳細に検証した新規の知見である。

  • キーワード:ヒ素、ケイ素、イネ、第I節位、穂
  • 担当:農業環境変動研究センター・有害化学物質研究領域・無機化学物質ユニット
  • 代表連絡先:
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

コメのヒ素濃度を低減するためには、節水管理などを行い、イネがもっともヒ素を吸収しやすい時期に、水田土壌中の溶存ヒ素濃度を低く抑える対策が有効である。水田土壌では湛水期間中に、ヒ素が亜ヒ酸として溶出する。亜ヒ酸は、イネの生育にとって有益なケイ酸と同じ輸送経路を介してイネの根から吸収され、茎葉に蓄積する。根から穂に向かう輸送経路の途中には、止葉と穂の分岐点に第I節位とよばれる器官がある。イネの第I節位は養分を選択的に止葉や穂に分配する役割が知られている。本研究は、イネのヒ素吸収が高まる時期を明らかにするとともに、地上部に移行したヒ素が出穂後に、止葉、穂、第I節位へどのように分配されていくか、ケイ素との比較によりその類似性と相違性を明らかにし、コメのヒ素低減対策に必要な基礎的知見を得る。

成果の内容・特徴

  • 出穂前後3週間の湛水管理下で栽培したコシヒカリ地上部一株あたりのヒ素含有量は、出穂2週前から出穂2週後頃までの間に急激に高まる(図1)。ケイ素の含有量も出穂2週後頃まで急増する同様の特徴を持つ。出穂2週後以降におけるイネ地上部のヒ素とケイ素の含有量は共にゆるやかに増加する。
  • 出穂後の器官別ヒ素濃度は第I節位で最も高く、ケイ素濃度は止葉で最も高くなり、元素の分布パターンに違いが見られる(図2)。また、穂のヒ素濃度は大きく変動しないが、ケイ素濃度は出穂後数日で増加し、その後減少する違いがある(図2)。
  • ヒ素とケイ素の輸送に違いが現れるのは、止葉と穂への分岐点である第I節位である。ヒ素は第I節位に留まることで、穂への輸送が制限される(図3)。

成果の活用面・留意点

  • 本成果は、コメのヒ素低減のための水管理を実施する時期を出穂3週前から出穂3週後とする根拠となる。
  • 本研究は、出穂前後3週間の湛水管理下で、出穂前後の土壌溶液中ヒ素濃度が安定的に高い条件で実施されたものである。水田土壌中の溶存ヒ素濃度が変動する条件下では、ヒ素含有量の変化が異なる可能性がある。

具体的データ

図1 出穂前31日から成熟期におけるイネの器官別ヒ素含有量。バーは標準偏差を示す(n=5)。,図2 出穂から成熟期における器官別のヒ素(左、中)およびケイ素(右)濃度。バーは標準偏差を示す(ヒ素:n=5、ケイ素:n=3)。,図3 止葉、穂、第I節位におけるヒ素とケイ素分配のイメージ。

その他

  • 予算区分:交付金、委託プロ(化学物質リスク管理)
  • 研究期間:2018年度
  • 研究担当者:赤羽幾子、須田碧海、石川覚、安部匡、馬場浩司、古屋愛珠、山口紀子
  • 発表論文等:Akahane I. et al. (2020) Soil Sci. Plant Nutr. 66(5): 784-792