新規カドミウム浄化専用イネ品種による水田のファイトレメディエーション

要約

新規カドミウム浄化専用品種「ファイレメCD2号」を用いたカドミウム汚染水田のファイトレメディエーション(植物浄化)技術は、従来品種を用いた同技術より効率的な植物浄化が可能である。

  • キーワード:ファイトレメディエーション、カドミウム、カドミウム浄化専用品種、耐倒伏性、難脱粒性
  • 担当:農業環境変動研究センター・有害化学物質研究領域・作物リスク低減ユニット
  • 代表連絡先:
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

ファイトレメディエーションは、植物が持つ養分吸収能を利用して、カドミウム(Cd)等の有害物質を土壌から取り除く方法である。Cd汚染水田において、Cd高集積性を有するイネ品種を用いたファイトレメディエーションは有望な技術であるが、既存の品種は収穫前に倒れやすく(倒伏性)、籾が落ちやすい(脱粒性)特徴を持つため、栽培しやすい実用品種の開発が望まれている。本研究では、先行して育成された耐倒伏性と難脱粒性を有する実用的高Cd集積品種「ファイレメCD1号」よりもさらに高い耐倒伏性を獲得した新規のCd浄化専用品種を開発し、その品種を用いた実用性と効率性を併せ持つファイトレメディエーション技術を提案する。

成果の内容・特徴

  • この成果は、従来のCd高集積品種の不良形質を改良した新規Cd浄化専用品種を、Cd収奪を促進する早期落水栽培法(中干し以降天水栽培)で栽培することで、従来品種より効率的にCd汚染水田のファイトレメディエーションを行うことを可能にした技術である。
  • 新規Cd浄化専用品種の育成には、Cd高集積遺伝子として知られる機能欠損型OsHMA3遺伝子を利用している(Ueno et al. 2010、Miyadate et al. 2011)。OsHMA3タンパク質は、根細胞の液胞内にCdを輸送するトランスポーターであり、機能を欠損すると根で吸収されたCdが、液胞に隔離されずに地上部に運搬され、籾藁のCd濃度が上昇する(図1)。この遺伝子を持つインディカ品種「ジャルジャン」に耐倒伏性と難脱粒性を持つ飼料イネ品種「たちすがた」を3回交配し、Cd高集積遺伝子を検出できるDNAマーカーを利用して選抜・育成したのが、Cd浄化専用品種「ファイレメCD2号」である(図2)。
  • 「ファイレメCD2号」が耐倒伏性と難脱粒性を有することで、機械収穫時の作業性が向上する(表1)。
  • 「ファイレメCD2号」の籾藁のCd収奪量と土壌Cd濃度の低減率は、先行研究でCd浄化に利用された「長香穀」より高く、効率的なファイトレメディエーションが期待できる(図3)。
  • これらの成果は、東北から九州までの複数の試験地において安定性が確認されている。

成果の活用面・留意点

  • 「ファイレメCD2号」を用いたファイトレメディエーションは「植物による土壌のカドミウム浄化技術確立実証事業実施の手引(第2版)(2018、農林水産省・農研機構)」に紹介されており、詳細な情報は入手可能である。
  • 「ファイレメCD2号」は、Cd収奪を促進する早期落水栽培(中干し以降天水栽培)により不稔を発生させる可能性がある。しかし、落水による不稔は籾藁のカドミウム収奪量に影響しないため、中干し以降は落水を徹底し、過乾燥と思われる場合のみ走水を行う。
  • 採種を行う場合は、採種用圃場を設け、食用品種と同様の水管理を行う。肥培管理は「たちすがた」に準じて行う。
  • 本品種を水田転換畑のファイトレメディエーションに活用することで、ダイズやムギなどの畑作物のCd低減にも役立つことが期待できる。

具体的データ

図1 Cd高集積品種のCd高集積メカニズム,図2 「ファイレメCD2号」の育成経過(A)、草姿(B)と籾・玄米の外観(C),表1 「ファイレメCD2号」の農業形質(2014年~2016年の平均値、茨城県つくば市、慣行栽培),図3 「ファイレメCD2号」のカドミウム収奪量と土壌Cd濃度の推移 A)籾藁のCd収奪量 (B)土壌Cd濃度の推移

その他

  • 予算区分:交付金、委託プロ(新農業展開ゲノムプロ)、その他外部資金(レギュラトリーサイエンス事業)
  • 研究期間:2009~2019年度
  • 研究担当者:
    安部匡、伊藤正志(秋田県農試)、高橋竜一(秋田県農試)、本間利光(新潟農総研)、関谷尚紀(長野県農試、現長野県畜試)、白尾謙典(熊本農研セ)、倉俣正人、村上政治、石川覚
  • 発表論文等:
    • Abe T. et al. (2011) Breeding Science 61:43-51
    • Abe T. et al. (2017) Soil Science and Plant Nutrition 63:388-395
    • 農林水産省、農研機構 (2018) 「植物による土壌のカドミウム浄化技術確立実証事業実施の手引(第2版)」(2018年1月)
    • 安部ら「ファイレメCD2号」品種登録出願番号 第34395号(公表日:2020年3月23日)