水田の生物多様性を高める取組を網羅的な文献レビューから評価

要約

日本各地で実践されている水田の生物多様性に配慮した8種類の農法や栽培管理はいずれも保全効果が認められるが、とくに、江の設置とビオトープの効果が高く、また無脊椎動物の指標性が高い。本成果により、環境保全型農業が効果的・効率的に実施されることが期待できる。

  • キーワード:生物多様性、環境保全型農業、保全効果、システマティックレビュー
  • 担当:農業環境変動研究センター・生物多様性研究領域・生物多様性変動ユニット
  • 代表連絡先:
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

世界中で生物多様性の減少が深刻化する中、生物多様性に配慮した持続的な食糧生産システムの確立が喫緊の課題となっている。わが国でも、既に多くの事例研究が行われ、有機・特別栽培等の取組みによる生物多様性の保全効果が検証されている。しかし、水田の生物多様性に配慮した様々な農法・栽培管理がこれまで実践されているものの、それらの保全効果に関する科学的知見を網羅的に取りまとめた統合的研究はほとんどない。取組みの種類や生物群(植物、無脊椎動物、鳥等)ごとの保全効果の違いを明らかにし、環境保全型農業を効果的・効率的に推進するための知見が必要である。
そこで本研究では、国内の科学的知見を客観的基準に基づいた文献調査・レビュー(システマティックレビュー)によって整理し、生物多様性に配慮した取組みの種類や生物群ごとの保全効果を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • システマティックレビューによって得た、273件の研究事例を取りまとめた結果である。
  • 研究事例数および保全効果の一貫性に応じて、信頼度を附している(表1)。これにより、科学的エビデンスの確からしさを評価することができる。
  • 分析対象とした8種類の取組みは、いずれも保全効果(生物の種数または個体数が増加すること)が認められるが、とくに、江の設置やビオトープの保全効果が一貫している(図1)。
  • 生物群では、とくに無脊椎動物(クモ、トンボ、底生動物等)の事例数が多く、またどの取組みでも保全効果が一貫していることから、指標生物としての有効性が示唆される。

成果の活用面・留意点

  • 本成果は、これまで農業者や自治体が取り組んできた様々な取組みが、生物多様性の保全に有効な農業生産方式であることを示す科学的・客観的証拠となる。
  • これらの栽培法で保全される生物多様性を、公開中の「鳥類に優しい水田がわかる生物多様性の調査・評価マニュアル」を活用して適切に評価することで、農産物の付加価値のさらなる向上やブランド化に貢献することが期待される。
  • 今後、こうした生物多様性がもたらす生態系サービスの実態を解明し、その恩恵を活用する新たな農業生産方式を実現するための研究を推進する必要がある。

具体的データ

表1 本研究における信頼度の定義,図1 取組みの種類および生物群に応じた保全効果およびその信頼度。

その他

  • 予算区分:交付金、委託プロ(収益力向上)、競争的資金(科研費)
  • 研究期間:2018~2020年度
  • 研究担当者:片山直樹、馬場友希、大久保悟
  • 発表論文等:
    • 片山ら(2020)日本生態学会誌、70:201-215
    • 農研機構(2018)「鳥類に優しい水田がわかる生物多様性の調査・評価マニュアル」(2018年3月16日)