DNAバーコーディングを用いた外来ゴキブリの同定

要約

千葉県で発見されたゴキブリ目不明種について、DNAバーコーディングを用いてアルゼンチンモリゴキブリであると同定する。同定に必要な情報や生息状況を公表することで、注意喚起および今後の同定に利用できる。

  • キーワード:DNAバーコーディング、同定、外来昆虫、餌用昆虫、ゴキブリ
  • 担当:農業環境変動研究センター・環境情報基盤研究領域・昆虫分類評価ユニット
  • 代表連絡先:
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

不明な昆虫が野外で発見された際には、地域の生態系や農林水産業に影響を及ぼす外来種の恐れもあるため、対象の迅速な同定が極めて重要である。しかし、特に外来生物や新規侵入生物等の場合には、形態形質を用いた迅速な同定が困難となるケースも少なくない。そこで本研究では、千葉県で発見されたゴキブリ目不明種の同定を事例として、不明昆虫の同定におけるDNAバーコーディングの有用性を示す。

成果の内容・特徴

  • DNAバーコーディングは、特定のDNAの塩基配列(DNAバーコード)を用いて生物種の同定を行う手法である。Web上に公開されている既存情報(DNAバーコードライブラリー)と、サンプルから得られたDNA情報を比較し、相同性の高い配列を持つ生物種を照合することで同定を行う(図1)。DNA情報は成長によって変化しないため、卵や幼虫等、形態判別が困難な場合でも、サンプルのDNAさえ利用できれば同定が可能である。
  • 本研究では、千葉県船橋市の集合住宅の敷地内にて確認されたゴキブリ目不明種を対象とする。今回確認された不明種の集団は、現地の状況から、遺棄された飼育個体に由来すると考えられる(図2)。また、2017年の初確認以来、継続的に確認されているため、現地にて越冬、繁殖していると考えられる。
  • 本種の発見当初に確認されたのは、幼虫とメス成虫のみであり、外部形態を用いた同定が極めて困難である。そこで、入手した本種の後脚からDNAを抽出し、DNAライブラリーの登録情報と比較し、対象種がアルゼンチンモリゴキブリ(Blaptica dubia)(図3)であると同定する。その後得られたオス成虫を用いて、雄交尾器などの詳細な形態形質に基づき、同定の確認を行う。

成果の活用面・留意点

  • 新規に国外から持ち込まれた生物は、専門家でも速やかな同定が難しいことも少なくない。こうした場合でもDNAバーコーディングを用いることで迅速な同定が可能となる。
  • アルゼンチンモリゴキブリは、繁殖力が高く、飼育が容易であるため、国内でも爬虫類などの餌用昆虫として流通している。本種の生態系への影響は明らかとなっていないが、今後の警戒が必要である。本種の国内での野外発生の確認は初めてであるため、環境省へ情報提供を行った。
  • DNAバーコードを用いた同定には、対象となる種の情報がDNAライブラリーに登録されている必要がある。しかし、昆虫類は、その種数の多さから情報整備が遅れており、特に日本産昆虫では特定の分類群を除き、既知種の数%の情報しか整備されていない。今後、DNAバーコーディングの有効活用には、国内外に関わらず、幅広い昆虫種について早急な情報整備が必要である。

具体的データ

図1 DNAバーコーディングの概要図,図2 日中にブロックに潜むアルゼンチンモリゴキブリ(左)、遺棄された飼育ケース周辺で夜間に見られた本種(右),図3 国内で定着が確認されたアルゼンチンモリゴキブリの成虫(雄(左)、雌(右))

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2019~2020年度
  • 研究担当者:山迫淳介、加藤俊英(船橋市)
  • 発表論文等:Kato T. and Yamasako J. (2020) Entomol. Sci. doi: 10.1111/ens.12450