農業環境中の放射性セシウムの移行に関わるパラメータを整理しIAEA技術資料として公表

要約

原発事故等により環境中へ排出された放射性セシウムの土壌から作物への移行過程に関わるこれまでの実測データを統計解析するとともに、主要なパラメータを抽出・整理し国際機関を通じて公表することで、基準値策定等の意思決定や移行メカニズム解明のための国内外における活用を促す。

  • キーワード:放射性セシウム、東京電力福島第一原子力発電所事故、土壌から作物への移行係数、放射性セシウム捕捉ポテンシャル(RIP)、交換性カリウム
  • 担当:農業環境変動研究センター・物質循環研究領域・水質影響評価ユニット
  • 代表連絡先:
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

2011年の東京電力福島第一原子力発電所事故後、農業環境中における放射性セシウムの土壌から作物への移行過程に関わる様々な調査研究が実施されてきたが、それらのデータは必ずしも利用しやすい形に整理されていない。そこで、原発事故等の際の基準値策定等の意思決定や移行メカニズム解明のための活用を促すことを目的として、これまでの調査研究データを収集すると共に、主要なパラメータを整理・解析し、国際原子力機関(International Atomic Energy Agency, IAEA)の技術資料(IAEA技術資料シリーズ、No.1927)の第4章「農業システム」の中で公表する。

成果の内容・特徴

  • 土壌の放射性セシウム捕捉ポテンシャル(Radiocesium Interception Potential, RIP)は、放射性セシウムを強く吸着する土壌の性質を定量的に示した値である。本技術資料では、RIPを土壌の全炭素含量別・粘土含量別のカテゴリー毎に区分し、幾何平均値、最大値・最小値等を掲載している(図1)。この結果を用いれば、土壌の基本的な分析項目である全炭素含量・粘土含量を得ることで、分析が容易ではないRIPの値の確率分布を推定でき、任意の土壌から水稲玄米への放射性セシウム移行リスクの評価等に活用することが出来る。RIPは、作物の放射性セシウム汚染に脆弱な土壌を抽出するのに有用であり、日本ではチェルノブイリ事故周辺よりもRIPが高い(放射性セシウムが土壌に強く吸着されやすい)土壌が多いことが示されている。
  • 農林水産省により実施された福島県内における土壌から水稲玄米への放射性セシウムの移行係数(=水稲玄米中の濃度(新鮮重ベース)/土壌中の濃度(乾土ベース):但し、本技術資料中では、濃度比CRと呼称)の広域調査によれば、移行係数の幾何平均、最大値及び最小値は、いずれも経年的に低下している(表1)。
  • このほか、土壌中の交換性カリウム濃度が高いほど、水稲玄米、ダイズ、ソバへの移行係数が低下する傾向があること、ダイズ、ソバ等の移行係数が経年的に低下していること等、多くの知見とそれを表現するための各種パラメータが集約されている。

成果の活用面・留意点

具体的データ

図1 土壌の全炭素含量(TC)及び粘土含量(clay)のカテゴリー別に整理した放射性セシウム捕捉ポテンシャル(RIP)の幾何平均値(白丸)、5及び95パーセンタイル値(箱の下端・上端)、最大値及び最小値(エラーバー).,表1 福島県内における土壌から水稲玄米への放射性セシウムの移行係数と土壌の交換性カリウム濃度の経年変化.

その他

  • 予算区分:交付金、委託プロ(営農再開)、その他外部資金(地域再生)
  • 研究期間:2016~2020年度
  • 研究担当者:江口定夫、山口紀子、藤村恵人、松波寿弥、信濃卓郎
  • 発表論文等:
    • Tagami et al.(2020)IAEA TECDOC series No. 1927:31-127
    • Yamamura et al. (2018) J. Environ. Radioactiv. 195:114-125