豚丹毒菌の臨床上重要な血清型を同定できるマルチプレックスPCR法

要約

豚丹毒に罹患した豚及び野生動物から高頻度に分離される豚丹毒菌の血清型(1型、2型、5型)を容易に型別できる手法である。本法により、病原性の強い血清型株を特定することが可能になる。

  • キーワード:豚丹毒、PCR、家畜、野生動物、主要血清型同定
  • 担当:動物衛生研究部門・細菌・寄生虫研究領域・細胞内寄生菌ユニット
  • 代表連絡先:電話029-838-7791
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

豚丹毒はグラム陽性の豚丹毒菌(Erysipelothrix rhusiopathiae)による豚の感染症で、家畜伝染病予防法の届出伝染病に指定されている。本菌を含むErysipelothrix属菌種の血清型は、細胞壁抗原を用いたゲル内沈降反応により、現在まで1(1a及び1b)から26までの型と型特異抗原を欠くN型に分類されている。このなかでも、豚、鶏、ヒト等、動物に病気を起こす菌はE. rhusiopathiae菌種の中でも特定の血清型(1a、1b、2)に多く、また、野生動物からは5型菌が多く分離されている。このように、血清型を同定することは病原性株を特定する上で重要であるが、ゲル内沈降反応は特別な抗血清を使用するため限られた機関でしか実施できない。そこで本研究では、本病に罹患した豚、鶏、ヒト、野生動物から分離される臨床上重要な血清型を、誰もが短時間で同定できるマルチプレックスPCR法を開発する。

成果の内容・特徴

  • 豚丹毒菌血清型1a型菌、1b型菌、2型菌、5型菌の血清型抗原を規定する遺伝子群をゲノム解析により同定し解析する。その後、ERH_1438とERH_1451遺伝子間に存在する各血清型に特異的な遺伝子配列に基づきプライマー配列を決定する(図1)。
  • 豚丹毒菌及び近縁のErysipelothrix属3菌種の全血清型菌を含む297株についてPCR法を用いて血清型を同定すると、1a型、1b型、2型、5型の血清型菌でのみ特異バンドが増幅され本法の特異性が検証される(図2)。

普及のための参考情報

  • 普及対象:家畜保健衛生所等の病性鑑定担当者、食肉検査所等の検査担当者、病院等の微生物検査担当者
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:国内全都道府県
  • 農林水産省の平成30年度戦略的監視・診断体制推進委託事業(家畜伝染病診断体制強化・整備)において、豚丹毒菌主要血清型別用PCR試薬一式として国内全都道府県52箇所に配布した。

具体的データ

図1 各血清型を規定する遺伝子の配列とプライマーの設計位置,図2 豚丹毒菌主要血清型(1a型、1b型、2型、5型)を識別するマルチプレックスPCR法

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2018年度
  • 研究担当者:下地善弘、白岩和真、小川洋介、西川明芳、江口正浩
  • 発表論文等:
    • 1) Shiraiwa K. et al.(2018) Vet. Microbiol. 225:101-104
    • 2) Ogawa Y. et al.(2018) Infect. Immun. 86:e00324-18