Salmonella Typhimuriumの遺伝的背景を判定するための新しい型別法

要約

由来の様々な119株のSalmonella Typhimuriumは、そのゲノム系統から9つの遺伝子型に型別できる。各遺伝子型に特異的な一塩基多型をPCRで検出する系を組み合わせることで、一般の検査室でも本菌の遺伝的背景を判定することが可能となる。

  • キーワード:牛、豚、Salmonella Typhimurium、遺伝子型、アレル特異的PCR
  • 担当:動物衛生研究部門・細菌・寄生虫研究領域・腸管病原菌ユニット
  • 代表連絡先:電話029-838-7743
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

Salmonella Typhimurium(ST)による家畜のサルモネラ症は家畜伝染病予防法における届出伝染病に指定されており、近年は非定型STの特定の遺伝的系統の流行が日本を含めて世界中で問題となっている。STは牛や豚から分離されるサルモネラの半数以上を占めており、その型別にはパルスフィールドゲル電気泳動(PFGE)や多座反復配列解析(MLVA)が用いられてきた。しかしながら、PFGEによる型別は必ずしも遺伝的背景を反映しないこと、MLVAはDNAシークエンサーが必要であることなどから、一般の検査室で本菌の遺伝的背景を明らかにすることは難しい。遺伝的背景を明らかにすることは過去の流行株との異同判定を容易にする。そこで本血清型のゲノム系統解析から区別すべき遺伝子型を明らかにするとともに、各遺伝子型に特徴的な一塩基多型(SNP)をPCRで検出する系を組み合わせることで、一般の検査室でも本血清型の遺伝子型を判定できるSNP遺伝子型別法の開発を試みる。

成果の内容・特徴

  • 国内外で動物、人、環境から分離されたSTとその非定型株119株の全ゲノム塩基配列を比較すると、6205個のSNPを抽出できる。
  • 6205個のSNPを連結し、疑似塩基配列としてゲノム系統解析を実施すると、119株のSTは9つの遺伝子型に型別できる(図1)。
  • 各遺伝子型に特異的なSNPを選び出し、そのSNPを有するときに増幅するアレル特異的PCR(AS-PCR)の系を各遺伝子型で確立し、それらを組み合わせて遺伝子型を判定するSNP遺伝子型別法を確立できる。本法では9つのAS-PCRで1つだけ増幅が認められた場合に型別可能である(図1)。
  • 牛由来828株のうち815株(98.4%)が本法により型別可能であり、過去40年間のSNP遺伝子型変遷を見ると、子牛のサルモネラ症の多かった1990年代以前は2型が、成牛のサルモネラ症が急増した1990年代には1型が、2000年代には7型が、そして2011年以降は主に非定型STである9型が最優勢となっている(図2)。
  • 豚由来152株のうち140株(92.1%)が本法により型別可能であり、過去40年間のSNP遺伝子型変遷を見ると、1990年代以前は2型が、1990年代は1型が、そして2000年代以降は3型及び9型が優勢となっている(図2)。
  • 本法により被検菌の遺伝的背景を明らかにすることで、過去の流行株との異同判定が容易となる。さらにPFGEによる型別を組み合わせることで、より詳細な疫学的考察が可能となる。

普及のための参考情報

  • 普及対象:家畜保健衛所の病性鑑定施設、研究機関、大学
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:国内全都道府県

具体的データ

図1 STの新しい遺伝子型別法の開発,図2 過去40年間の牛及び豚由来STのSNP遺伝子型変遷

その他

  • 予算区分:競争的資金(医療研究開発推進)
  • 研究期間:2017~2018年度
  • 研究担当者:秋庭正人、新井暢夫(大阪府大)、関塚剛史(感染研)、玉村雪乃、田中聖、Lisa Barco(IZSVe)、泉谷秀昌(感染研)、楠本正博、日根野谷淳(大阪府大)、山﨑伸二(大阪府大)、岩田剛敏、渡部綾子、黒田誠(感染研)、内田郁夫(酪農大)
  • 発表論文等:Arai N. et al. (2018) J. Clin. Microbiol. 56:e01758-17. https://doi.org/10.1128/JCM.01758-17