豚デルタコロナウイルスは豚に下痢を引き起こす病原体の一つである

要約

豚デルタコロナウイルスは遅くとも2014年2月には海外から我が国に侵入し、蔓延していたと考えられる。また、単独感染で下痢を引き起こすため、他の豚下痢症ウイルスとの類症鑑別を要する。

  • キーワード:豚デルタコロナウイルス、浸潤状況調査、全ゲノム解析、病原性
  • 担当:動物衛生研究部門、ウイルス・疫学研究領域・発病制御ユニット
  • 代表連絡先:電話029-838-7764
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

近年我が国では豚流行性下痢(PED)が流行・蔓延し、養豚産業に甚大な被害をもたらした。その渦中において、PEDウイルスまたは豚伝染性胃腸炎(TGE)ウイルスが陰性であるにも関わらず、下痢の発生が続く農場が散見されていた。米国では、PEDの全国的な発生の渦中に下痢便から新たに豚デルタコロナウイルスが検出され、このウイルスもまた下痢を引き起こすことが報告された。本研究では、主にPEDウイルスまたはTGEウイルス陰性である農場から集めた下痢便を対象に、我が国における豚デルタコロナウイルスの浸潤状況を明らかにする。また、それら下痢便より検出された豚デルタコロナウイルス7株について全ゲノムを明らかにすると共に、そのうちの1株を8頭の子豚に接種し、その病原性についても明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 全国の農場から集めた下痢便477検体のうち72検体(約15%)から豚デルタコロナウイルス特有の遺伝子が検出され、遅くとも2014年2月には我が国に本ウイルスが侵入していたと考えられる。
  • 2014年の下痢便から検出された豚デルタコロナウイルス7株について全ゲノムを明らかにし、既知の国外デルタコロナウイルス約50株のそれらとの比較・解析から、これら7株はほぼ同時期に米国、韓国で流行していた株と極めて近縁であると考えられる。
  • 感染実験の結果から、用いた株は子豚に対して一過的に重度な下痢を引き起こし、しばらくして回復することおよび一時的なウイルス血症を引き起こすことがわかる(図)。

成果の活用面・留意点

  • 今後豚下痢症を診断する上で、PEDウイルス、TGEウイルスに加えて、豚デルタコロナウイルスもまた念頭に置き、検査する必要がある。
  • 今回明らかにしたゲノム情報は将来的な豚デルタコロナウイルスワクチンの開発に役立つ重要な情報となる。

具体的データ

図 糞便中および血中における豚デルタコロナウイルスの量,

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2016~2018年度
  • 研究担当者:鈴木亨、芝原友幸、山本健久、大橋誠一、今井直人(福島県)
  • 発表論文等:Suzuki T. et al. (2018) Infection, Genetics and Evolution 61:176-182