食餌中の蛋白質欠乏はヒトロタウイルス弱毒生ワクチンの効果を減弱する

要約

ヒト健康乳児由来糞便細菌叢移植豚において、食餌中の蛋白質欠乏はヒトロタウイルス弱毒生ワクチン接種後の免疫応答を減弱させ、強毒株攻撃後の下痢発症率上昇と発症期間の延長、ならびにウイルス排泄量の増加と排泄期間の延長を引き起こす。

  • キーワード:ロタウイルス、ワクチン、栄養不良、蛋白質欠乏、免疫
  • 担当:動物衛生研究部門・ウイルス・疫学研究領域・豚ウイルスユニット
  • 代表連絡先:電話029-838-7764
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

アジア・アフリカ諸国では、急性胃腸炎を特徴とするロタウイルス感染症に対する経口弱毒生ワクチンの効果が期待されたよりも低く、本感染症による5歳以下乳幼児の死亡率が高いことが問題である。本課題では、ロタウイルス感染症の被害が大きいアジア・アフリカ諸国で栄養不良が蔓延していることに着目、腸内細菌叢を持たない無菌豚にヒト健康乳児由来糞便細菌叢を移植したノトバイオート豚を利用し、栄養不良、特に食餌中の蛋白質欠乏がロタウイルスのワクチンおよび感染免疫に及ぼす影響を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 食餌中の蛋白質欠乏は糞便細菌叢移植ノトバイオート豚において、ヒトロタウイルス弱毒生ワクチンの効果を減弱し、攻撃後の下痢発症率上昇と発症期間延長、ならびにウイルスの排泄率上昇、排泄量増加と排泄期間延長を引き起こす(図1)。
  • 蛋白質欠乏豚では、腸上皮バリア機能の低下をもたらす炎症性サイトカイン(TNF-α及びIFN-γ)のワクチン接種前血清中濃度が蛋白質充足豚よりも高いことから、ワクチン接種前に腸上皮バリア機能が破綻していた可能性がある(図2)。
  • 蛋白質欠乏豚では、弱毒生ワクチン経口投与後の血清中サイトカイン(IFN-α、IL-12、及びIFN-γ)の顕著な上昇が認められないことから、ワクチン接種に対する免疫応答が弱い可能性がある(図2)。
  • 蛋白質欠乏豚では、ヒトロタウイルス強毒株攻撃後も免疫抑制を担う制御性T細胞の割合が減少せず、ウイルス感染細胞の排除に重要な役割を果たす形質細胞様樹状細胞及びIFN-γ産生T細胞の割合も増加しない(図2)。これは、蛋白質欠乏豚では強毒株攻撃後の自然免疫及び獲得免疫が機能不全に陥っている可能性を示唆する。
  • 糞便由来細菌叢を移植しない無菌豚では蛋白質欠乏によるワクチン効果の減弱が認められないことから、蛋白質欠乏による移植細菌叢の変化がワクチン効果減弱の一因である可能性が示唆される。

成果の活用面・留意点

  • ロタウイルス感染症対策には、ワクチンの活用に加えて衛生や栄養も考慮した総合的な取り組みが必要である。
  • ヒト健康乳児由来糞便細菌叢移植ノトバイオート豚は腸内細菌叢と免疫との相互作用解明に活用可能な動物モデルである。

具体的データ

図1 ヒト健康乳児由来糞便細菌叢を移植したノトバイオート豚において蛋白質欠乏はヒトロタウイルス弱毒生ワクチンの効果を減弱する。,図2 蛋白質欠乏が引き起こすヒトロタウイルス弱毒生ワクチン効果減弱の免疫学的背景

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2016~2017年度
  • 研究担当者:宮﨑綾子、Sukumar Kandasamy(オハイオ州立大)、Husheem Michael(オハイオ州立大)、Gireesh Rajashekara(オハイオ州立大)、Anastasia N. Vlasova(オハイオ州立大)、Linda J. Saif(オハイオ州立大)
  • 発表論文等:Miyazaki A. et al. (2018) Vaccine. 36(42):6270-6281