豚丹毒菌血清型1および2型を規定する遺伝子領域

要約

豚丹毒菌血清型1および2型を規定する遺伝子領域が明らかになり、さらに、この遺伝子領域内にある5個の遺伝子は、本菌の病原因子である莢膜の発現およびマウスに対する病原性に関与している。

  • キーワード:豚丹毒、血清型、莢膜、細胞壁抗原
  • 担当:動物衛生研究部門・細菌・寄生虫研究領域・細胞内寄生菌ユニット
  • 代表連絡先:電話029-838-7791
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

豚丹毒菌は、豚に感染し、急性敗血症、亜急性のじん麻疹、慢性の関節炎および心内膜炎を主徴とする豚丹毒を引き起こす。本菌の血清型は、耐熱性抗原と免疫血清によるゲル内沈降反応により決定され、16型(1a、1b、2、4、5、6、8、9、11、12、15、16、17、19、21、23)および血清型特異的抗原を欠くとされるN型に分類されるが、その抗原とそれらをコードする遺伝子領域は同定されていない。また、豚丹毒に罹患した豚から分離される豚丹毒菌の血清型は、1および2型が多いが、血清型と病原性との関連は不明である。そこで、その関連を解明するため、血清型を規定するゲノム上の遺伝子領域を同定することを目指す。さらに、遺伝子欠損株を作製し、豚丹毒菌の病原因子である莢膜の発現およびマウスに対する病原性を解析する。

成果の内容・特徴

  • 血清型1a型のFujisawa株のゲノム上で多糖体の生合成経路であると推定される遺伝子領域に存在する13個の遺伝子について、変異株をそれぞれ作製し、それらの血清型を解析したところ、7個の遺伝子変異株において血清型1aに対する抗血清との反応性が欠失する(図1)。
  • 血清型1a型のFujisawa株において、血清型を規定する遺伝子領域内にある3個の遺伝子(ERH_1441、ERH_1442、ERH_1444)および、その上流に位置する2遺伝子(ERH_1449、ERH_1450)をそれぞれ欠損させると、莢膜抗原の発現が変化し(図2)、また、マウスに対する病原性が低下する。この結果から、血清型を規定する遺伝子が豚丹毒菌の病原因子である莢膜の発現に構造的あるいは機能的に関与することが示唆される。
  • 血清型1b、2型およびN型菌の血清型1a型を規定する領域に相当する遺伝子領域を解析した結果、血清型2型菌の遺伝子構成にはバリエーションがあり、また、解析した血清型N型菌は、血清型1a、1bあるいは2型のいずれかと同じ遺伝子構成をしている(図1)。
  • 血清型N型菌は、同じ遺伝子構成を持つ血清型1a、1bあるいは2型菌のそれぞれと比較すると、解析した遺伝子領域内に遺伝子変異が存在する(図1内*印)。そこで、2株のN型菌(Mie 02-47およびIshikawa 02-26株)を用いて、その変異をそれぞれ血清型1aあるいは2型の遺伝子で相補すると、それぞれの血清型に対する抗血清との反応性が復帰する。

成果の活用面・留意点

  • 血清型を規定する遺伝子領域を標的とすることで遺伝子検査による血清型別が可能になる。
  • 血清型を規定する細胞壁抗原は、莢膜の発現に構造的あるいは機能的に関与することが明らかになり、他血清型菌との病原性の差異を説明することが可能になるかもしれない。

具体的データ

図1 血清型1a型を規定する遺伝子領域および他血清型(1b、2、N)との比較,図2 莢膜抗原のイムノブロット

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2018年度
  • 研究担当者:小川洋介、白岩和真、西川明芳、江口正浩、下地善弘
  • 発表論文等:Ogawa Y. et al. (2018) Infect. Immun. 86(9):e00324-18 DOI:10.1128/IAI.00324-18