国内に分布するヌカカのアカバネウイルス感受性

要約

国内に分布するヌカカを用いたアカバネウイルスの経口摂取試験結果は、ウシヌカカなどの6種類がアカバネウイルスに感受性を持ち、ウイルスの媒介によって牛の異常産や脳脊髄炎の流行を引き起こすことを強く示唆している。

  • キーワード:媒介節足動物、アルボウイルス、実験感染、牛、異常産
  • 担当:動物衛生研究部門・越境性感染症研究領域・暖地疾病防除ユニット
  • 代表連絡先:電話029-838-7713
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

アカバネウイルスは、胎子感染により牛などの反芻獣に異常産(流産、早産、死産、先天異常子の出産)、生後感染により若齢牛に脳脊髄炎を起こす。国内ではアカバネウイルスによる異常産や脳脊髄炎の流行がしばしばみられ、畜産業に継続的な損耗が生じている。これまで、野外で採集したCulicoides属ヌカカや蚊類からウイルスが分離されているが、媒介種の特定には至っていない。本研究では、実験室内でヌカカに人工的にアカバネウイルスを含む血液を摂取させ、それぞれの種のウイルスに対する感受性を調べることにより、媒介種を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • アカバネウイルスを牛の脱繊維血に混和させ、経口的に摂取させた11種類のヌカカのうち、ウシヌカカ、シガヌカカ、ホシヌカカ、ムナジロヌカカ、キタオカヌカカおよびCulicoides asianaは、飼育10~11日後でもウイルスが分離されることから、アカバネウイルスに感受性がある(表)。
  • 感染個体中のウイルス力価は、ウシヌカカで他の3種(シガヌカカ、ホシヌカカ、キタオカヌカカ)より有意に高いことから、ウシヌカカはより効率的にアカバネウイルスを媒介する可能性がある(図)。
  • 10日間飼育後のウシヌカカ、シガヌカカでは初期にアカバネウイルスが感染する中腸を含む腹部だけでなく、胸部、頭部でもウイルス遺伝子がリアルタイムRT-PCRで検出されることから、感染が全身に広がり、だ液腺へのウイルスの移行が起き易くなっている。
  • ウイルスが分離されなかった個体でも、アカバネウイルス遺伝子がリアルタイムRT-PCRで検出されるが、ウイルスゲノムのコピー数は少なく、体内で増殖、拡散が阻害されていることが推測される。

成果の活用面・留意点

  • 同じ実験系を用いて、アカバネウイルス以外のアルボウイルスをヌカカに人工的に感染させ、それぞれのアルボウイルスに対するヌカカの感受性を精査することができる。
  • 実験的に明らかになった媒介種の分布や活動時期に基づき、ウイルスの伝播リスクを推定し、予防対策などに活用することが可能である。
  • 今後、ヌカカのウイルス媒介メカニズム、或いはウイルスの増殖・拡散を阻害する要因を明らかにする必要がある。

具体的データ

表 アカバネウイルスを経口的に摂取させたヌカカからのウイルス分離結果,図 感染ヌカカ1個体あたりのウイルス量

その他

  • 予算区分:競争的資金(科研費)
  • 研究期間:2014~2016年度
  • 研究担当者:梁瀬徹、加藤友子、早山陽子、白藤浩明、山川睦、田中省吾
  • 発表論文等:Yanase T. et al. (2019) J. Med. Entomol. 56(2):533-539