変異型スクレイピーであるCH1641型は牛海綿状脳症(BSE)の起源ではない

要約

BSEの起源は不明であるが、従来のスクレイピーとは性状の異なる変異型スクレイピーを牛プリオン蛋白質過発現(TgBoPrP)マウスに接種し、その性状を明らかにした結果から、この変異型スクレイピーを起源とするBSEは存在しないことが示唆される。

  • キーワード:スクレイピー、牛海綿状脳症(BSE)、遺伝子改変マウスモデル、プリオン
  • 担当:動物衛生研究部門・越境性感染症研究領域・プリオン病ユニット
  • 代表連絡先:電話029-838-7713
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

英国に端を発するBSE(定型BSEまたはC-BSE)は人獣共通感染症であり、C-BSEの起源を明らかにすることはリスク管理上重要な課題である。プリオン病の病原体は、宿主が持つ正常なプリオン蛋白質の構造が変化し、蛋白質分解酵素に対する部分抵抗性を獲得した異常型プリオン蛋白質(PrPSc)であると考えられている。羊のプリオン病であるスクレイピーは、C-BSE発生当初からその起源として疑われていたが、従来型のスクレイピーを接種した牛はC-BSEとは異なる性状を示すことが知られている。本研究では、ウェスタンブロット(WB)法で検出されるPrPScの分子量がC-BSEに類似する変異型のスクレイピー(CH1641型スクレイピー)を牛の代替モデルであるTgBoPrPマウスに接種し、その生物学的性状(臨床症状や病理像)と脳内に蓄積するPrPScの生化学的性状を定型BSEおよび非定型BSE(L-BSEおよびH-BSE)を接種したTgBoPrPマウスと比較し、BSEがCH1641型スクレイピーに由来するかを明らかにする。

成果の内容・特徴

  • CH1641型スクレイピーを接種したTgBoPrPマウスのPrPScバンドパターンは、H-BSEを接種したTgBoPrPマウスのバンドパターンとは異なる(図1)。
  • C-BSEを接種したTgBoPrPマウスとCH1641型スクレイピーを接種したTgBoPrPマウスの無糖鎖PrPScはほぼ同じ分子量を示すが、C-BSE接種マウスでは二糖鎖修飾されたPrPScの割合がCH1641型スクレイピーを接種したマウスに比べて著しく高い(図1)。
  • CH1641型スクレイピーを接種したTgBoPrPマウスの臨床症状や生存日数はC-BSEまたはH-BSEを接種したTgBoPrPマウスとは異なる(表1)。
  • CH1641型スクレイピーを接種したTgBoPrPマウスのPrPScバンドパターンは、L-BSEを接種したTgBoPrPマウスのバンドパターンと識別できない(図1)。
  • L-BSEを接種したTgBoPrPマウスとCH1641型スクレイピーを接種したTgBoPrPマウスは、旋回運動や脊柱後弯等の類似した臨床症状を示す(表1)。
  • L-BSEを接種したTgBoPrPマウスの生存日数は、CH1641型スクレイピーを接種したマウスに比べて有意に短い(表1)。
  • L-BSEを接種したTgBoPrPマウスとCH1641型スクレイピーを接種したTgBoPrPマウスは、脳内の空胞化部位やPrPScの蓄積部位が異なる(図2)。
  • 本研究の成果と過去の報告から、C-BSEが羊のスクレイピーに由来する可能性は非常に低いことが示唆される。

成果の活用面・留意点

  • 牛に比べて飼育が容易なTgBoPrPマウスを用いた異種間プリオン伝達試験モデルは、BSEの起源を探る有用な実験手法となり得る。

具体的データ

図1 TgBoPrPマウスに蓄積したPrPScバンドパターンの比較解析,図2 空胞化とPrPScの脳内分布の違い,表1 CH1641型スクレイピーまたは各BSEを接種したTgBoPrPマウスの生物学的性状

その他

  • 予算区分:委託プロ(食の安全・動物衛生プロ)、競争的資金(厚労科研費)
  • 研究期間:2013~2018年度
  • 研究担当者:宮澤光太郎、舛甚賢太郎、松浦裕一、岩丸祥史、横山隆、岡田洋之
  • 発表論文等:Miyazawa K. et al. (2018) Vet Res. 49:116