反芻獣レンサ球菌症の新たな病原体Streptococcus ruminantiumの同定法の開発

要約

これまで病気の反芻獣から分離され、豚レンサ球菌と同定されていた菌株のほとんどは新菌種Streptococcus ruminantiumであった。さらに、新たに開発したS. ruminantium同定用PCR法は、これまで検査現場で困難であった豚レンサ球菌とS. ruminantiumの識別を可能とした。

  • キーワード:反芻獣由来レンサ球菌、Streptococcus ruminantiumStreptococcus suis、同定PCR
  • 担当:動物衛生研究部門・細菌・寄生虫研究領域・病原機能解析ユニット
  • 代表連絡先:電話 029-838-7895
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

豚レンサ球菌Streptococcus suisは豚の主要な病原細菌として知られているが、病気の反芻獣からの分離も国内外で報告されている。ところが、2017年に、これまでS. suisと同定されていた複数の牛心内膜炎由来株がStreptococcus ruminantiumという新菌種に再分類された。これにより、病気の反芻獣から分離され、S. suisと同定された株の中にはS. suisではない株が含まれることが明らかとなったが、検査現場で行われる生化学性状に基づく分類ではS. suisS. ruminantiumの区別は困難であり、病気の反芻獣からの両菌種の実際の分離状況は不明である。そこで、本研究では、これまでS. suisと同定されていた国内の反芻獣由来レンサ球菌株を、最新の分類に従って再同定し、S. suisおよびS. ruminantiumの実際の分離状況を明らかにする。さらに、病巣由来株については、病気と菌株の遺伝子型との関連を調べるとともに、S. ruminantium同定用PCR法を開発することにより、反芻獣におけるレンサ球菌症の診断に有用な情報と技術を提供する。

成果の内容・特徴

  • S. suisおよびS. ruminantiumのいずれの菌種も反芻獣から分離されることがあるが、病巣由来株のほとんどはS. ruminantiumである(図1)。
  • 病巣由来でS. suisと再同定された株は少数(4株/118株)であるが、これらの株は髄膜炎や起立困難な子牛から分離されており、S. suisは反芻獣に全身性の症状を起こしうる(図1)。しかし、反芻獣由来S. suis株の遺伝子型はそれぞれ異なり、豚や人から高頻度に分離される遺伝子型とは異なるタイプである。
  • S. ruminantiumは、心内膜炎や関節炎、膿瘍、肺炎、呼吸器症状の牛や羊から分離されており、反芻獣に多様な病気を起こしうる。また、多様な遺伝子型の株が病巣から分離されており、病気との関連性が示唆される遺伝子型は認められない(図2)。
  • 肺炎や呼吸器症状の病巣からは、S. ruminantiumに加え、他の病原体も分離されることがある。この場合、S. ruminantiumは、必ずしも主要な原因菌ではなく、二次感染菌や常在菌である可能性もある。したがって、複数の菌種が分離される症例では、他の検査結果も合わせて慎重に診断を下す必要である。
  • 開発したS. ruminantium同定用PCR法はS. ruminantiumを特異的に検出でき、国内外における反芻獣のレンサ球菌感染症の正確な診断に活用することができる。(表1、図3)。

普及のための参考情報

  • 普及対象:国内外の家畜衛生検査施設及び食肉衛生検査施設
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:全国、海外
  • その他:
    • 農林水産省主催の研修会や獣医師の勉強会、細菌学分野の学会を通じて、全国の家畜保健衛生所等の病性鑑定担当者や獣医師、研究者に向けて情報発信を行っている。
    • 家畜保健衛生所、国内外の研究者から問い合わせあり。

具体的データ

図1 国内で反芻獣から分離されたS. suis様菌株の再分類結果,図2 S. ruminantium分離株のパルスフィールドゲル電気泳動による遺伝子型別結果,表1 開発したS. ruminantium同定用PCR法の特異性,図3 開発したS. ruminantium同定用PCR泳動像

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2014~2019年度
  • 研究担当者:大倉正稔、丸山史人(広島大)、大田篤(京都大)、田中剛(山形県)、的場洋平(山形県)、大澤綾(長野県)、Sayed Mushtaq Sadaat(アフガニスタン)、大﨑慎人、豊田敦(遺伝研)、小椋義俊(九州大)、林哲也(九州大)、髙松大輔
  • 発表論文等:Okura M. et al. (2019) Vet. Res. 50:94