新規鳥インフルエンザ遺伝子診断法の確立

要約

世界で流行するH5及びH7亜型鳥インフルエンザウイルスが国内に侵入した際に、速やかに適切に摘発できる診断法として、リアルタイムPCR法及びコンベンショナルPCR法による新たな鳥インフルエンザ遺伝子診断法を確立し、農水省動物衛生課長通知として都道府県に配布を終了している。

  • キーワード:鳥インフルエンザ、H5亜型、H7亜型、遺伝子検出、診断法
  • 担当:動物衛生研究部門・越境性感染症研究領域・インフルエンザユニット
  • 代表連絡先:電話 029-838-7895
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

鳥インフルエンザの診断は家畜伝染病予防法にもとづく特定家畜伝染病防疫指針に従って、農場で発見された異常家禽が簡易検査によってA型インフルエンザウイルスに感染していると判定された場合は、都道府県の病性鑑定家畜保健衛生所において当該ウイルスがH5またはH7亜型インフルエンザウイルスかどうかを遺伝子検査によって診断する。2012年より農林水産省は「戦略的監視・診断体制整備委託事業」で、全国都道府県の病性鑑定家畜保健衛生所に鳥インフルエンザ診断に用いる遺伝子検査プロトコルを配布している。一方でH5亜型高病原性鳥インフルエンザウイルス(HPAIV)は、世界中での感染拡大に伴い遺伝子の塩基置換が蓄積していることや中国で新たにH7N9亜型HPAIVの出現したことなどから、農研機構では継続的に新たに出現したウイルスに対して遺伝子検査プロトコルの有用性評価を実施している。
本研究ではその評価結果に基づいて、国内の鳥インフルエンザ遺伝子診断系の感度をより向上させる為に、反応系、対象遺伝子、プライマーの変更を検討し、新規鳥インフルエンザ遺伝子検査プロトコルを確立することを目指している。

成果の内容・特徴

  • 新規鳥インフルエンザ遺伝子検査プロトコルは、既存のプロトコルと同様にリアルタイムPCR法及びコンベンショナルPCR法を用いて、A型インフルエンザウイルスであるか否か、A型インフルエンザウイルスの場合はH5亜型又はH7亜型であるか否かを判定するものである。
  • 新規プロトコルでは、リアルタイムPCRの反応系を2段階から1段階にするとともに、プライマー・プローブセットを全ての組み合わせを変更している。コンベンショナルPCR法では、反応系を2段階から1段階に変更している。
  • リアルタイムPCR法の既存プロトコルでは様々なメーカーのリアルタイムPCRを行う機器毎に複数のプロトコルが存在していたが、新規プロトコルはこれらを統一して1つのプロトコルとなっている。
  • リアルタイムPCR法での変更により、既存のプロトコルより検出感度がA型インフルエンザウイルス検出系で平均251倍、H5亜型検出系で平均99倍、二種類のH7亜型検出系でそれぞれ平均2.4、8倍上昇している。反応系を1段階にしたことから作業が簡便化し、コンタミリスクも低減することが期待される(図1)。
  • コンベンショナルPCR法において反応系を1段階にしたことにより、既存のプロトコルで認められた非特異的反応が抑制され、診断の正確性が高まるとともに作業が簡便化し、コンタミリスクも低減することが期待される(図2)。

普及のための参考情報

  • 普及対象:都道府県病性鑑定家畜保健衛生所
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:50カ所
  • 普及方法:農林水産省消費・安全局動物衛生課長通知 元消安第2275号「高病原性鳥インフルエンザ及び低病原性鳥インフルエンザに関する特定家畜伝染病防疫指針に基づく遺伝子検査の方法について」(令和元年9月27日)として各都道府県に通知されている。

具体的データ

図1 新旧プロトコルでの各検出系の検証比較,図2 H5亜型鳥インフルエンザウイルスのコンベンショナルPCR法での反応系による相違

その他

  • 予算区分:戦略プロ(家畜伝染病リスク管理)
  • 研究期間:2018~2019年度
  • 研究担当者:内田裕子、常國良太、中山ももこ、谷川太一朗、峯淳貴、竹前喜洋、西藤岳彦
  • 発表論文等:
    農林水産省消費・安全局動物衛生課課長通知(2019)「鳥インフルエンザ遺伝子検査用試薬 リアルタイム PCR 法操作マニュアル H5,H7,M 検査系」「ウイルス遺伝子検出検査(RT-PCR 検査)」(2019年9月27日)