国内初となる馬への馬パピローマウイルス2型感染事例
要約
わが国の馬に馬パピローマウイルス2型(EcPV2)感染による疾病が発生している。EcPV2は一般に外部生殖器の腫瘍の原因であり、その他の病変との関連は不明であったが、馬の頭部の扁平上皮癌や乳頭腫の発症にも関与している。
- キーワード:馬パピローマウイルス2型、扁平上皮癌、乳頭腫、喉頭蓋、悪性化
- 担当:動物衛生研究部門・ウイルス・疫学研究領域・牛ウイルスユニット
- 代表連絡先:電話 029-838-7895
- 分類:研究成果情報
背景・ねらい
馬は扁平上皮癌、乳頭腫、類肉腫などの皮膚腫瘍を発症しやすい。馬の類肉腫形成に牛パピローマウイルス(BPV)感染が関与することが以前から知られていたが、近年、馬由来の馬パピローマウイルス(EcPV)が新たに見つかり、EcPV感染と馬の上皮性腫瘍との関連性が注目されている。EcPVには8種類の遺伝子型が存在し、そのうち2型(EcPV2)は外部生殖器の腫瘍の発生に関与し、まれに悪性化することが報告されている。しかし、その報告は欧州や北米、南米のみであり、国内での報告はない。
今回、喘鳴と発熱、食欲不振により死亡した19歳、雌、サラブレッド種の事例に遭遇し、剖検によって当該馬の喉頭、咽頭、気管、喉頭嚢部に広がる腫瘍塊を採取した。これらの検体について、特に喉頭蓋の腫瘍を中心として病理組織学的に検証することで病態を解明し、さらに原因の究明を目指す。
成果の内容・特徴
- 腫瘍中心部の組織標本(HE染色像)。線維血管性間質により区画された小葉構造の中心部は、角化を示す高分化扁平上皮癌細胞から成り、その周囲にはより分化度の低い腫瘍細胞が認められ、これらは典型的な扁平上皮癌の所見である(図1A)。
- 腫瘍辺縁部の組織標本(HE染色像)。扁平上皮の乳頭状増殖が観察され、その表層部には好塩基性核内封入体の形成があり、典型的なウイルス性乳頭腫の組織像である(図1B)。
- 乳頭腫と扁平上皮癌との移行部の組織標本(HE染色像)。良性の乳頭腫から悪性の扁平上皮癌への組織学的進展がみられる(図1C)。
- 免疫組織化学染色像。パピローマウイルス発癌遺伝子であるE6に対する抗体を用いた染色で、乳頭腫病変部の核内封入体と一致して陽性反応がみられる(図1D)。扁平上皮癌細胞の大半が、増殖細胞マーカーであるサイクリンD1抗体および増殖核抗原PCNA抗体に陽性であることは(図1E、1F)、当該腫瘍が悪性であることを示している。
- PCRによって腫瘍組織から増幅したパピローマウイルス由来DNAの塩基配列は(DDBJアクセション番号LC46661)、英国で見つかったEcPV2(DDBJアクセション番号EU503122)と99.6%の相同性を持っている。
成果の活用面・留意点
- わが国の馬にEcPV2による疾病が発生していることに留意する必要がある。
- EcPV2は外部生殖器の腫瘍のみならず、扁平上皮癌や乳頭腫の発症にも関与している。
具体的データ

その他