Mycoplasma californicumの薬剤耐性化に関わる一塩基置換検出法の開発
要約
牛乳房炎の原因菌であるM. californicumの薬剤耐性化に関わる一塩基置換を特定し、これらを簡易迅速に検出する方法を開発することで、これまで2~3週間を要していた有効な治療薬の選択を4~5時間に短縮できる。
- キーワード:Mycoplasma californicum、乳房炎、マクロライド、リンコサミド、Hybridization probe
- 担当:動物衛生研究部門・細菌・寄生虫研究領域・病原機能解析ユニット
- 代表連絡先:電話 029-838-7895
- 分類:研究成果情報
背景・ねらい
Mycoplasma californicumはわが国における牛乳房炎の主要な原因菌の一つであり、本疾病は強い伝染性と難治性を特徴とする。治療には抗生剤が使用されるが、本菌の多くは染色体上の一塩基置換により抗生剤に耐性を示すことが知られている。本菌に対して有効な抗生剤を選択するための薬剤感受性試験には2~3週間を要する(図1A)ため、簡易迅速な薬剤感受性判別方法の開発が求められている。そこで、本研究ではわが国のM. californicumについて薬剤耐性に関わる一塩基置換を特定し、これらを簡易迅速に検出する方法を開発する。
成果の内容・特徴
- マクロライドならびにリンコサミド系抗生剤に対する薬剤耐性M. californicumでは23SリボソームRNA遺伝子において耐性の原因となる一塩基置換が生じており、変異箇所に応じて耐性となる抗菌剤の種類と耐性の程度は異なる。一方、M. californicumが自然耐性を示すエリスロマイシンの感受性を復帰させる一塩基置換も存在する。
- 開発した薬剤感受性判別方法では一塩基置換を含む遺伝子領域のPCR法による増幅と、その増幅産物とプローブの結合割合の変化を融解曲線解析*で調べることにより、当該一塩基置換の有無を判定する(図1B、図2A)。
*融解曲線解析:標的変異箇所を含むプロ-ブ(野生株における同配列の蛍光標識オリゴヌクレオチド)と被検株の同領域のPCR増幅産物が温度依存的に結合~解離する反応を蛍光の発生~消滅で表す方法である(図2A)。変異株では一塩基置換に伴うプローブ~PCR産物間のミスマッチにより両者の結合が弱く、野生株より融解曲線のピーク温度が低下する(図2B)。
- M. californicumでは、標的となる23SリボソームRNA遺伝子がゲノム内に通常2個存在する。一塩基置換が存在しない感受性株(野生型)では融解曲線のピーク温度は高温であるが(図2C、青線)、2個ともに一塩基置換が生じた場合(変異型)は融解曲線のピーク温度は低温に移る(図2C、緑線)。一方、1個のみに一塩基置換が生じた場合(ヘテロ型)は融解曲線は両ピーク温度を含む二峰性に変化する(図2C、赤線)。一塩基置換は1個のみ存在する株でも2個存在する株と同程度の耐性を示す。
- 本検出法のコストは1検体当たり850円程度である。
成果の活用面・留意点
- M. californicumが原因となる国内外の乳房炎治療に際し、マクロライドならびにリンコサミド系抗生剤の有効性判断に活用可能である。
- 他薬剤に対する薬剤耐性M. californicumの出現について今後も監視する必要がある。耐性株が確認された薬剤については同検査法の開発を試みる。
具体的データ

その他