我が国の野生イノシシにおける豚丹毒菌の保菌率は非常に高い

要約

我が国で初めてとなる野生イノシシにおける家畜疾病の病原体分布状況の全国調査の結果は、人獣共通感染症の病原体である豚丹毒菌に対する野生イノシシの抗体陽性率が95.6%と非常に高いことを示す。イノシシは扁桃に様々な血清型の豚丹毒菌を保菌し、分離株は病原性を有する。我が国の野生イノシシは養豚産業や人に対する豚丹毒菌の感染源として注意が必要である。

  • キーワード:野生動物、イノシシ、豚丹毒、人獣共通感染症、サーベイランス
  • 担当:動物衛生研究部門・細菌・寄生虫研究領域・ヨーネ病ユニット、細胞内寄生菌ユニット・ウイルス・疫学領域・疫学ユニット
  • 代表連絡先:電話 029-838-7895
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

家畜における伝染病の清浄性を維持・推進するためには、野生動物における疾病の浸潤状況を把握した上で、疾病の発生状況を日常的に監視することが重要となる。特にイノシシは分類学上豚と同じ種であり、豚の感染症の病原体のほとんどに感受性を持つため、野生イノシシを介した疾病の養豚農場への侵入が懸念されている。しかし、これまで日本の野生イノシシにおける家畜疾病の調査は、限られた地域での小規模調査が主となっている。
そこで、動物衛生研究部門では我が国で初めてとなる全国レベルでの野生動物疾病サーベイランスとして、都道府県猟友会に協力を依頼して検査材料と個体情報を収集し検査を行う体制を構築し、2014年から調査を実施している。本研究では、豚を含む哺乳類や鳥類に疾病を起こす人獣共通感染症の病原体である豚丹毒菌について、野生イノシシが感染源となる可能性について明らかにする。

成果の内容・特徴

  • イノシシの生息域をほぼ網羅する41府県から狩猟または有害鳥獣駆除で捕獲された野生イノシシの検体として、2014年~2017年に集めた血液検体は計1,372頭分である(図1)。感染の履歴となる豚丹毒菌に対する血中抗体の抗体陽性率は95.6%であり、欧州諸国で報告された陽性率(2.4%-17.5%)と比べて非常に高い。
  • 北陸地域の野生イノシシの臓器(扁桃)からの培養検査の結果は、豚と同様にイノシシは様々な血清型の豚丹毒菌を保菌することを示す(表1)。また、いずれの分離株もマウスを用いた試験で病原性を示す。
  • 我が国の野生イノシシは養豚産業や人に対する豚丹毒菌の感染源として脅威となりえるため、本成果は行政や畜産関係者が農場への疾病の侵入対策を講じる上で重要な情報となる。

成果の活用面・留意点

  • 我が国のイノシシでの高い浸潤率の背景を明らかにするためには、野生環境における豚丹毒菌の保菌動物の種類と分布様式について更なる研究が必要である。
  • 豚丹毒菌の各種血清型のうち1a型は豚への病原性が特に高いことが知られるが、今回イノシシの扁桃から1a型は分離されていない。その理由は不明であるが、今回の検体は主に成体イノシシ由来であり、幼少期の個体が強毒株に感染して死亡したような場合は、結果に反映されないことに留意する必要がある。

具体的データ

図 1 2014-2017年に収集したイノシシの捕獲地点とイノシシの生息域,表1 野生イノシシの扁桃から分離された豚丹毒菌の血清型

その他

  • 予算区分:交付金、その他外部資金(戦略的監視診断)
  • 研究期間:2014~2017年度
  • 研究担当者:
    大﨑慎人、小川洋介、白岩和真、西川明芳、江口正浩、清水友美子、山本健久、下地善弘、筒井俊之
  • 発表論文等:
    • 大﨑ら (2019) 日本豚病研究会報 74:28-33
    • Shimoji Y. et al. (2019) Microbial. Immunol. 63:465-468