初めて分離されたSpaA防御抗原を保有する血清型6型豚丹毒菌

要約

豚丹毒菌が発現する主要防御抗原Spa蛋白の種類は血清型と関連があり、血清型6型菌はSpaBタイプ抗原を持つとされている。今回、病豚から分離される6型菌がSpaAタイプ抗原を保有することが明らかとなり、一部の株においては血清型とSpaタイプが関連していないことが分かる。

  • キーワード:豚丹毒菌、防御抗原、血清型、Spa蛋白
  • 担当:動物衛生研究部門・細菌・寄生虫研究領域・細胞内寄生菌ユニット
  • 代表連絡先:電話 029-838-7895
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

豚丹毒菌の主要防御抗原であるSpa蛋白にはSpaA、SpaB、SpaCの3種のタイプがあり、そのタイプは血清型と関連していることが知られている。豚由来の臨床分離株の血清型はほとんどが1a、1b、2型であり、国内及び海外で使用される豚丹毒ワクチン(生ワクチン及び不活化ワクチン)はいずれもSpaAタイプ抗原を保有する血清型1a又は2型菌で製造されている。このため、ワクチンは同じSpaAタイプ抗原を持つ別の血清型菌に対しては有効であるが、Spaタイプの異なった株に対しては防御が不完全になる。したがって臨床分離株のSpaタイプを知ることはワクチンの効果を評価する上で重要になる。本研究では、豚丹毒を発症する豚から分離される株について血清型とSpaタイプを解析する。

成果の内容・特徴

  • アイルランド由来の病豚から分離される株(Ireland株)について家兎抗血清を用いてゲル内沈降反応により血清型を同定すると、Ireland株は血清型6型参考株であるTuzok株と同じ6型菌であることが分かる (図1)。
  • ERH_1438遺伝子からERH_1451遺伝子までの血清型を規定する遺伝子領域の配列を解析すると、Ireland株とTuzok株は同じゲノム構造と遺伝子配列を示すことが分かる(図2)。
  • 一方、SpaA特異的モノクローナル抗体を用いたドットブロット法によるSpaA蛋白の検出では、SpaBタイプ抗原を保有するTuzok株は抗体と反応しないがIreland株は抗体と反応することから、Ireland株はSpaA蛋白を発現することが分かる(図3)。
  • Ireland株はワクチン株と同じSpaA蛋白を発現することから、この株に対してワクチン接種は有効であることが分かるが、これまでの報告と異なり、Spaタイプと血清型は必ずしも関連していないことが分かる。

成果の活用面・留意点

  • 臨床分離株の血清型を同定することは疫学上重要であるが、分離株に対するワクチンの効果を評価するには、血清型とSpaタイプの両方を決定することが必要となる。
  • 血清型の同定には1から26型までに対応した抗血清と血清型参考株が必要になるため、PCR法等による簡易血清型同定法の開発が望まれる。

具体的データ

図1 ゲル内沈降反応による血清型の同定,図2 血清型を規定する遺伝子領域の構造,図3 モノクローナル抗体を用いたSpaA蛋白の検出

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2018~2019年度
  • 研究担当者:下地善弘、尾藤麻希子(動物検疫所・羽田空港支所)、白岩和真、小川洋介、西川明芳、江口正浩
  • 発表論文等:Shimoji Y. et al.,(2019)J. Vet. Diagn. Invest. 31, 488-491.