豚に対して強い病原性を示すサペロウイルスAベトナム株の分離と遺伝子解析
要約
急性症状を呈し死亡した豚の小腸上皮からベトナム国初となるサペロウイルスAを分離し、全ゲノム塩基配列を決定する。得られるゲノム情報は、東南アジア、東アジアにおける豚重要疾病ウイルスの移動と流行に重要な疫学的情報を提供する。
- キーワード:サペロウイルス、豚、急性下痢症、ベトナム、ゲノム解析
- 担当:動物衛生研究部門・越境性感染症研究領域・アフリカ豚熱ユニット
- 代表連絡先:電話 029-838-7708
- 分類:研究成果情報
背景・ねらい
2018年初頭からベトナム国北部ナムディン(Nam Dinh)県の養豚農家で原因不明の急性下痢症が流行し、死亡例が続発した。近年ベトナム国を含む東南アジア、東アジアではCSF(豚熱)、ASF(アフリカ豚熱)等の重要疾病が流行しており、我が国への侵入やその際の迅速な防疫対応を可能とするためにも、当該下痢症の原因追及が求められる。そこで本研究ではベトナム国獣医学研究所(NIVR)と共同で原因ウイルスの分離を試み、豚腎由来株化細胞(CPK)に対して強い細胞障害性を示すウイルスを分離とともにPCR解析等によりCSF、ASF、口蹄疫(FMD)、豚流行性下痢(PED)、豚伝染性胃腸炎(TGE)、豚繁殖呼吸障害症候群(PRRS)および離乳後多臓器消耗症候群(PWMS)との関連性を明らかにする。また全ゲノム解析によってウイルス種を同定する。
成果の内容・特徴
- ベトナム国北部ナムディン県で急性の下痢症状を示してへい死した豚の小腸上皮から作製した臓器乳剤をCPK細胞に接種すると、培養72時間以降明瞭な細胞変性効果(CPE)を示す(図1、添付予定)。
- 次世代シーケンサーを用いて全ゲノム配列(7,495塩基)を決定し、相同性検索(BLAST検索)を実施すると、Sapelovirus A(旧分類:豚サペロウイルス)であり、ベトナム国内初の発生報告であることが分かる。得られたゲノム配列情報を用いて近隣接合法に基づく系統樹解析により、当該分離株(XTND/2018株)は近年湖南省で分離された中国系のウイルスグループに属することが分かる(図2)。
成果の活用面・留意点
- 分離株(XTND株)は豚に病原性を示すウイルス株であり、ベトナム国初発報告となる。主な病態は発熱、元気消失、食欲不振ならびに下痢であり、豚熱、アフリカ豚熱等と類似した病型を示すことが示され、豚の衛生対策上ならびに鑑別上重要な疾病と考えられる。
- 全ゲノム配列情報が明らかとなったことから、逆転写PCRなどによる簡易な診断が可能となり、また流行の過程におけるウイルスの遺伝的ならびに病原学的変化の追跡が可能となる。
- 本病の我が国への侵入に際して遺伝子検査やウイルス分離による迅速かつ確実な診断が可能となる。
具体的データ

その他
- 予算区分:交付金
- 研究期間:2018~2019年度
- 研究担当者:
國保健浩、西達也、宮澤光太郎、加藤友子(動衛研)、Hoang Vu Dang、Ha Thanh Tran(ベトナム国立獣医学研)
- 発表論文等:Dang et al.(2019)Microbiol Resour Announc 8(37):e00959-19