高感度な口蹄疫ウイルス遺伝子検出法

要約

口蹄疫ウイルスゲノムのうち、ウイルス株間で保存性の高いポリメラーゼ遺伝子を標的とするプライマーセットを設計した。本セットをPCRに使用することにより、従来よりも高い感度で本ウイルスを検出することが可能となり、より迅速かつ確実な診断の一助となる。

  • キーワード:口蹄疫、遺伝子検査、RT-PCR
  • 担当:動物衛生研究部門・越境性感染症研究領域・口蹄疫ユニット
  • 代表連絡先:電話 029-838-7895
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

RNAを増幅するReverse transcription-PCR(RT-PCR)は、口蹄疫のような伝染力の強い疾病の病原体を迅速に検出する方法の一つとして有用である。口蹄疫ウイルスは他のRNAウイルスと同様、複製時における変異率が高く、その遺伝子は多様である。そのため、本ウイルスをRT-PCRで検出するには、全ての血清型で保存性の高い遺伝子領域を標的として選ぶ必要がある。本研究では、ポリメラーゼ遺伝子を標的とするプライマー(FM8/9)を設計し、その感度と特異度を国際獣疫事務局(OIE)の推奨する5'非翻訳領域を標的とするプライマー(1F/R)を用いたRT-PCRと比較する。

成果の内容・特徴

  • FM8/9は、遺伝子データベースにある口蹄疫ウイルス全血清型の塩基配列を元に、保存性の高い領域を標的として設計されている(図1)。
  • 被検サンプル中に口蹄疫ウイルス遺伝子が存在する場合、アガロースゲル電気泳動によって644塩基対の明瞭なバンドを得ることが出来る(図2)。
  • 本プライマーセットは、口蹄疫と同様の症状を示す疾病(水胞性口炎、豚水胞病、セネカウイルスAによる豚の突発性水胞病)の原因ウイルスに対しては反応しない。
  • FM8/9を用いたRT-PCRは1F/Rを用いた場合と比較し、4倍から6,300倍高い感度を示す。
  • FM8/9を用いたRT-PCRは1F/Rを用いた場合よりも長い期間(1~4日)、感染動物からウイルス遺伝子を検出することが出来る。

成果の活用面・留意点

  • RT-PCRは最も迅速にウイルスを検出する方法として、口蹄疫の診断に重要な役割を担う。本検査法を活用することにより、口蹄疫の迅速かつ確実な診断の一助となる。

具体的データ

図1 各プライマーセットのFMDV遺伝子の標的位置,図2 FM8/9を用いたRT-PCR検査陽性例

その他

  • 予算区分:委託プロ(食の安全・動物衛生プロ)
  • 研究期間:2017~2018年度
  • 研究担当者:西達也、菅野徹、嶋田伸明、森岡一樹、山川睦、深井克彦
  • 発表論文等:Nishi T. et al. (2019) Transbound Emerg Dis. 66:1776-1783