ウイルス最外殻タンパクとRNA複製遺伝子が口蹄疫ウイルスの病原性を支配する

要約

強い病原性を示す口蹄疫ウイルスの最外殻タンパク質またはポリメラーゼ遺伝子を、低病原性ウイルスの当該遺伝子とそれぞれ入れ換えると、病原性が低いウイルスとなる。得られた成果は、より安全かつ効果的なワクチンや抗ウイルス剤の開発に活用できる。

  • キーワード:口蹄疫ウイルス、病原性関連遺伝子、遺伝子組換えウイルス
  • 担当:動物衛生研究部門・越境性感染症研究領域・口蹄疫ユニット
  • 代表連絡先:電話 029-838-7895
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

口蹄疫ウイルスの病原性や宿主領域は株によって異なり、その性状の違いは畜産業にもたらす被害規模を大きく左右する。国内では2000年と2010年の二度にわたり口蹄疫が発生したが、2000年の発生戸数が4件に留まったのに対し、2010年には292戸の農家に被害が拡大した。本研究では、2000年および2010年に分離された2株を用いて遺伝子組換えウイルスを作出し、病原性に関与する遺伝子領域を探索した。その結果得られるデータは、新規ワクチン・抗ウイルス剤の開発に活用されることが期待される。

成果の内容・特徴

  • 日本2010年分離株(O/JPN/2010)の最外殻タンパク質VP1またはRNAの複製を担う3Dポリメラーゼ遺伝子を2000年分離株(O/JPN/2000)の当該遺伝子に組換えることにより、乳飲みマウスへの病原性が低くなる(図)。このことは、これらのタンパクがそれぞれに、ウイルスの病原性に大きく関与することを示す。
  • 牛での感染実験において、O/JPN/2000は、O/JPN/2010よりも顕著に低い病原性を示す。さらに、乳飲みマウスに一定量(10 TCID50)接種した場合、それぞれ0%、100%の致死率を示す。
  • 2つの親株についてウイルス複製時に起きる塩基置換率を解析したところ、O/JPN/2010がO/JPN/2000よりも1.5倍以上高い。ポリメラーゼによるRNA複製の忠実度が高いほど、口蹄疫ウイルスの病原性が低いことが示唆される。

成果の活用面・留意点

  • 口蹄疫ウイルスの病原性関連遺伝子を明らかにしたことで、人工的に病原性を無くした、安全で効果的なワクチンやそれらの遺伝子の機能を標的とする抗ウイルス剤の開発が可能となる。

具体的データ

図 病原性の異なるウイルス同士の遺伝子組換え体の性状解析

その他

  • 予算区分:委託プロ(食の安全・動物衛生プロ)
  • 研究期間:2015~2018年度
  • 研究担当者:西達也、森岡一樹、齋藤暢子、山川睦、菅野徹、深井克彦
  • 発表論文等:Nishi T. et al. (2019) mSphere 4: e00294-19