ベトナム南部で分離されたH5N6亜型高病原性鳥インフルエンザウイルスのヒト感染リスク

要約

2018年7月にベトナムで死亡したフランス鴨から分離されたH5N6亜型高病原性鳥インフルエンザウイルスは中国南部で起きた4例のヒト感染事例から分離されたウイルスと8つの遺伝子分節の組合せおよび遺伝子の類似性が高く、この遺伝子型のウイルスはベトナムで初めて分離された。

  • キーワード:高病原性鳥インフルエンザウイルス、H5N6亜型、ヒト感染、伝播、ベトナム
  • 担当:動物衛生研究部門・越境性感染症研究領域・インフルエンザユニット
  • 代表連絡先:電話 029-838-7895
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

H5N6亜型高病原性鳥インフルエンザウイルスは、2013年以降アジアを中心に家きんおよび野鳥への感染が広がっている。中国では、散発的にヒトへの感染事例が報告されており、公衆衛生上も大きな問題となっている。本研究では、2018年7月にベトナムの南部で死亡したフランス鴨から分離されたH5N6亜型高病原性鳥インフルエンザウイルスの遺伝子を解析することにより、ウイルスの由来を推定する。

成果の内容・特徴

  • 2018年ベトナム南部で死亡したフランス鴨から分離されたウイルス株の8つの遺伝子分節の組合せは、ベトナムで初めて報告される遺伝子型である。
  • 本株は、2018年10月にロシアで野鳥から分離されたH5N6亜型ウイルスおよび中国南部でヒトに感染したH5N6亜型ウイルスと遺伝子的に近縁である(図1)。
  • ウイルス遺伝子及び分離日時・場所の情報を用いた地理系統解析により、本株は2013年から2018年にかけて中国南部で流行しているH5N6株の中で、ヒトへの感染を起こした株と近縁な株から伝播したと推定される(図2)。
  • 中国南部の株に近縁な株が、ベトナム北部を経ずに直接ベトナム南部で分離されたこと、5000km以上離れたロシアで近縁な株が報告されていることから、野鳥等によりウイルスが伝播した可能性が示唆される(図2)。

成果の活用面・留意点

  • ベトナムと距離的に離れたロシアにおいて非常に近縁なウイルスが分離されていることから、ヒトに感染したウイルスと近縁なウイルスの野鳥等を介した世界的拡散に注意が必要である。
  • 中国でヒトに感染したウイルス株と非常に近縁な株がベトナム南部で分離されたことは、ベトナムにおける高病原性鳥インフルエンザウイルスのヒトへの感染リスクに対する注意喚起となる。

具体的データ

図1 ベトナム分離株のHA遺伝子系統樹,図2 中国南部からベトナム南部へのH5N6株の伝播

その他

  • 予算区分:戦略プロ(家畜伝染病リスク管理)
  • 研究期間:2018~2019年度
  • 研究担当者:
    常國良太、須藤加澄(動薬研)、Phuong Thanh Nguyen(DAH,Vietnam)、Bach Duc Luu(DAH,Vietnam)、Thai Duy Phuong(DAH,Vietnam)、Tran Minh Tan(DAH,Vietnam)、Tung Nguyen(DAH,Vietnam)、峯淳貴、中山ももこ、谷川太一朗、Kirill Sharshov(FRCFTM,Russia)、竹前喜洋、西藤岳彦
  • 発表論文等:Tsunekuni R. et al. (2019) Transbound. Emerg. Dis. 66:2209-2217