H7N9亜型高病原性鳥インフルエンザウイルス由来のH7N3亜型遺伝子再集合体は親ウイルスよりも宿主域が広い

要約

2018年に日本で分離されたH7N3亜型高病原性鳥インフルエンザウイルス(HPAIV)はH7N9亜型HPAIV由来の遺伝子再集合体である。アヒル・マガモが本ウイルスに感染した場合、発症せず継続的にウイルスを排出するため、野生カモ類の渡りに伴う国境を超えたHPAIVの拡散が懸念される。

  • キーワード:H7N9亜型、H7N3亜型、鳥インフルエンザウイルス、遺伝子再集合、異種適応
  • 担当:動物衛生研究部門・越境性感染症研究領域・インフルエンザユニット
  • 代表連絡先:電話 029-838-7895
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

2013年3月、中国安徽省において初めてH7N9亜型低病原性鳥インフルエンザウイルス(LPAIV)の人への感染が確認された。その後、本ウイルスは2017年にニワトリに対する高病原性を獲得するとともに、2017年9月までに中国において冬季を中心に人での流行を5回引き起こしている。2017年10月以降、人での発生は激減したが、今なお中国国内でニワトリや生鳥市場の環境検体から分離されている。一方で、H7N9亜型LPAIV/HPAIVは、アヒルなどのカモ類からはほとんど分離されないことから、カモ類には適応していないと考えられている。しかし、2018年、中国福建省でアヒル由来のH7N9亜型HPAIVとカモ類由来の鳥インフルエンザウイルス(AIV)との遺伝子再集合体であるH7N2亜型HPAIVが分離され、それがアヒルに致死的感染を起こすことが報告された(Shi et al., 2018, Cell Host & Microbe 24, 558-568)。日本では、2018年に動物検疫所にて中国人旅行客が違法に国内に持ち込んだ家禽肉よりH7N9亜型HPAIVに由来するヘマグルチニンタンパク(HA)を持つH7N3亜型HPAIV(HE30-1株)が分離された。
本研究は、HE30-1株の遺伝子学的な由来を詳細に解析し、さらに本ウイルスのアヒル・マガモに対するウイルス性状を感染実験によって明らかにすることを目的とする。

成果の内容・特徴

  • HE30-1株はH7N9亜型HPAIVを由来にもつ遺伝子再集合体であり、H7N9亜型HPAIV以外に系統の異なる少なくとも2種類のAIVに由来する遺伝子を持っている(図1)。
  • HE30-1株はニワトリに感染した場合と同程度にアヒル・マガモ体内で増殖し気管、クロアカから排出される(図2)。
  • HE30-1株に感染したニワトリは感染後3日以内に全羽死亡する。一方で、HE30-1株に感染したアヒル・マガモは症状を示さないにも関わらず、継続的にウイルスを体外へ排出し続ける(図2)。

成果の活用面・留意点

  • HE30-1株がアヒル・マガモ体内で無症候性に増殖し継続的に体外へと排出されたことは、遺伝子再集合によりアヒル・マガモに適応したH7亜型HPAIVが出現したことを示している。
  • カモ類に適応したウイルスが野生カモ類に感染した場合、野生カモ類の渡りを介してウイルスが国境を越えて拡散する可能性がある。こうした拡散に伴い、日本国内の養鶏農家におけるH7亜型HPAIの発生とそれに伴う養鶏産業への甚大な被害がもたらされる恐れがある。
  • HE30-1株のHAには、ヒト型ウイルスレセプターへのウイルスの親和性を高める160番目のアミノ酸における変異が認められたものの、その他の既知のヒトへの感染性を高めるアミノ酸変異は認められないことから、当該ウイルスのヒトへの感染リスクはH7N9亜型ウイルスより低いと推定される。

具体的データ

図1 HE30-1株の各分節の由来,図2 HE30-1株のニワトリ、アヒル、カモ気管からのウイルス排出経過

その他

  • 予算区分:戦略プロ(家畜伝染病リスク管理)
  • 研究期間:2018~2019年度
  • 研究担当者:
    中山ももこ、内田裕子、柴田明弘(動物検疫所)、小林芳史(動物検疫所)、峯淳貴、竹前喜洋、常國良太、谷川太一朗、原田理恵子(動物検疫所)、尾坂優之(動物検疫所)、西藤岳彦
  • 発表論文等:Nakayama M. et al. (2019) Transbound. Emerg. Dis. 66(6):2342-2352