H5N6亜型高病原性鳥インフルエンザウイルスの鶏、カモ類における感受性の違い

要約

2016-2017年冬季に日本で分離されたH5N6亜型の高病原性鳥インフルエンザウイルスは鶏感染でほぼ100%の死亡率であるが、アヒル及びフランス鴨のそれは50%以下である。未死亡のカモ類はウイルスを長期間排泄することから、潜在的に感染を拡大する可能性が示唆される。

  • キーワード:高病原性鳥インフルエンザ、H5亜型、鶏、アヒル、フランス鴨
  • 担当:動物衛生研究部門・越境性感染症研究領域・インフルエンザユニット
  • 代表連絡先:電話 029-838-7895
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

2016年12月から2017年4月にかけて、国内ではH5N6亜型高病原性鳥インフルエンザウイルス(HPAIV)による11例の家禽での発生とともに、多数の野生鳥類からのウイルス分離が報告されている。分離ウイルスの表面タンパクの遺伝子系統は同一であるが、ウイルス内部遺伝子分節の組み合わせにより5種類の遺伝子型(C1、C2、C4、C5及びC6)に分類される。また、当時期のフランス鴨農場での発生は国内初の報告である。
本研究は、これらのウイルス侵入・拡散経路や発生要因を明らかにするため、5種類の遺伝子型ウイルスの鶏に対する病原性及び当時期に分離件数が最も多かったC2遺伝子型ウイルスの鶏、フランス鴨、アヒル(野生カモ類の感染実験モデル)での感受性の相違を調べる。

成果の内容・特徴

  • 鶏に対するH5N6亜型HPAIVの5種類の遺伝子型の病原性はいずれも高く、感染鶏のうちC2遺伝子型の青森株を除き100%死亡する。臨床症状として沈鬱、顔面浮腫、チアノーゼを示す個体も観察される。各遺伝子型の50%鶏致死ウイルス力価(50% Chicken lethal dose; CLD50)は3.0-5.25まで多様である(図1A及びB)。
  • C2遺伝子型のウイルス3株(新潟株、青森株及び兵庫株)間のCLD50の差は最大100倍ある。青森株に感染した鶏の中にはウイルス排泄しながら生存する個体が認められる(図1B)。
  • 106 50%発育鶏卵感染量(50% Egg infectious dose;EID50)のC2遺伝子型のウイルスを接種したアヒル及びフランス鴨は全てウイルスに感染するが、新潟株-フランス鴨群及び兵庫株-アヒル群のみで死亡個体が認められ、各群の死亡率はそれぞれ50%である(図1B)。また、生存したアヒル及びフランス鴨は接種後1日目から10日目までウイルス排泄をする(図2)。
  • 当時期に分離されたHPAIVは、低病原性鳥インフルエンザウイルス(LPAIV)に比較して低い温度でも高い増殖性が認められる(図3)。このことは、野生カモ類のモデルであるアヒルがHPAIVに感染した際に、腸管でのウイルス増殖量に比べ、体温が比較的低い気管でのウイルス増殖量が統計的に高いこと(図2)を裏付けている。

成果の活用面・留意点

  • 日本国内でカモ類の飼育農場数は少ないが、近年流行するHPAIVがアヒルやフランス鴨で明瞭な症状がなく長期間ウイルス排泄をすることは、これらの宿主が農場間でのウイルス拡散リスクとなりうることを示している。
  • 近年家禽だけでなく、野生渡り鳥での感染例も多く報告されている遺伝子系統2.3.4.4のH5亜型HPAIVは、アヒルで低い致死性を示す一方でウイルス排泄量が高いことが、野生のカモ類でのウイルス循環や国境を超えたウイルス伝播の要因であると考えられる。

具体的データ

図1 HPAIVの鶏・アヒル・フランス鴨への感染試験,図2 C2遺伝子型HPAIV感染アヒル及びフランス鴨の平均ウイルス量の推移,図3 HPAIVとLPAIVの温度によるウイルス増殖量の比較

その他

  • 予算区分:戦略プロ(家畜伝染病リスク管理)
  • 研究期間:2016~2018年度
  • 研究担当者:内田裕子、峯淳貴、竹前喜洋、谷川太一朗、常國良太、西藤岳彦
  • 発表論文等:Uchida, Y. et al. (2019) Transbound. Emerg. Dis. 66: 1227-1251