高病原性鳥インフルエンザに対するベクターワクチン効果の改善

要約

抗原遺伝子として高病原性鳥インフルエンザウイルスのHA遺伝子を組み込んだ組換えアビュラウイルス血清型10ベクターワクチンについて、抗原遺伝子両端の遺伝子配列を改変することで抗原発現量が大幅に増強し、本ベクターワクチン効果が改善した。

  • キーワード:高病原性鳥インフルエンザウイルス、ベクターワクチン、非翻訳領域、鳥アビュラウイルス血清型10、発現量増強
  • 担当:動物衛生研究部門・越境性感染症研究領域・インフルエンザユニット
  • 代表連絡先:電話 029-838-7895
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

現在実用化されている高病原性鳥インフルエンザウイルス(HPAIV)のHA遺伝子を組み込んだニューカッスル病ウイルス(NDV)ベクターワクチンは、飲水等の省力的な方法によりHPAIVに対する免疫を誘導することが可能である。しかし、NDVに対するワクチンは、日本を含め世界中で常用されているため、NDVをベクターとした組換えワクチンの効果が阻害される問題がある。そこで、以前の研究においてHPAIVのHA遺伝子を組み込んだ組換えアビュラウイルス血清型10(rAAvV-10)ベクターワクチンを作成し、同じアビュラウイルス属に属するNDVに対する免疫を付与した鶏においてもワクチン効果が阻害されないことを示した。一方で、rAAvV-10ベクターワクチンのワクチン効果は、HPAIV感染後の鶏を25%生存させる程度であり、HPAIV感染を完全に防御するほど十分ではなかった。本研究では、rAAvV-10に挿入したHA遺伝子両端の遺伝子配列を改変し抗原発現量を増強することにより、ワクチン効果の改善を行う。

成果の内容・特徴

  • 挿入したHA遺伝子の両端にAAvV-10の各遺伝子の非翻訳領域を付与した改変rAAvV-10(NP-UTR、P-UTR、M-UTR、F-UTR、HN-UTRおよびL-UTR)では、感染細胞でのHAタンパク質の発現量が大幅に増強する(図)。
  • 組換えベクターワクチンを点眼投与した後HPAIVを接種した場合、UTRを付与していないrAAvV-10(nonUTR)を投与した鶏では70%の鶏が生存するのに対し、UTRを付与した改変rAAvV-10を投与した鶏では100%生存する(表)。
  • HPAIV接種に対して鶏を100%生存させた改変rAAvV-10の中で、NP、FおよびHN-UTRで免疫した鶏からは、HPAIVの接種後もHPAIVの排泄が確認されない(表)。

成果の活用面・留意点

  • UTRを付与した改変rAAvV-10の点眼投与によって、HPAIV感染から鶏を100%防御することが可能であったことから、HPAIVに対するワクチンとして活用することが期待できる。
  • 点眼投与より実用的な投与方法や、遺伝子組換え生物として農場で使用した場合の安全性について検討が必要である。

具体的データ

図 改変rAAvV-10感染細胞でのHA発現量の比較,表 改変rAAvV-10の鶏でのワクチン効果

その他

  • 予算区分:戦略プロ(家畜伝染病リスク管理)
  • 研究期間:2018~2019年度
  • 研究担当者:常國良太、谷川太一朗、中屋隆明(京都府立医科大)、西藤岳彦
  • 発表論文等:
    • Tsunekuni R. et al. (2019) Vaccine S0264-410X (19):31500-2
    • 常國、西藤「組み換え鳥パラミクソウイルス」特許6573746 (2019年8月23日)