鼻腔からの免疫誘導による黄色ブドウ球菌性乳房炎防除法の開発
要約
鼻腔へ黄色ブドウ球菌死菌を投与することで黄色ブドウ球菌に対する特異的抗体を乳汁に分泌でき、黄色ブドウ球菌の乳房内感染による排菌数を減少させることができる。
- キーワード:黄色ブドウ球菌、牛乳房炎、鼻腔免疫、ナノゲル、IgA
- 担当:動物衛生研究部門・病態研究領域・寒地酪農衛生ユニット
- 代表連絡先:電話 029-838-7895
- 分類:研究成果情報
背景・ねらい
酪農生産現場では、甚大な経済的被害をもたらす乳房炎に対するワクチンの開発が強く求められている。種々のタイプのワクチンのなかでも、特異的なIgA抗体を粘膜表面に分泌させ、病原体の侵入を防止する粘膜誘導型のワクチンは乳房炎対策に有用と考えられる。そこで、本研究では牛の鼻腔へ黄色ブドウ球菌死菌を投与することにより、乳汁への抗原特異的抗体の分泌と乳房内感染後の乳汁中への排菌数を検証し(図1)、鼻腔からの免疫誘導による黄色ブドウ球菌性乳房炎の防除効果を明らかにする。
成果の内容・特徴
- 粘膜面への付着と抗原送達能力に優れたカチオン性ナノゲルと黄色ブドウ球菌の死菌を組み合わせて鼻腔粘膜へ投与することで、乳汁中に黄色ブドウ球菌に対する特異的IgA抗体を分泌出来る(図2)。
- 鼻腔から特異的免疫を付与された牛は、黄色ブドウ球菌の乳房内感染による排菌数が約1/100に減少する(図3)。
成果の活用面・留意点
- 鼻腔からの免疫誘導により牛乳房炎に対する新たなワクチン開発に応用できる。
- 黄色ブドウ球菌の乳房内感染の完全な防除には至っていないため、ワクチネーションプログラムの見直し、死菌以外のワクチン抗原の選定、経鼻以外の投与経路の選択(経口や経肛門など)の検証なども併せて行う必要がある。
具体的データ

その他
- 予算区分:その他外部資金(28補正「経営体プロ」)
- 研究期間:2017~2019年度
- 研究担当者:
長澤裕哉、菊佳男、菅原和恵、遠藤亜矢、甲斐千暁、林智人、髙橋俊彦(酪農学園大学)、北野菜奈(酪農学園大学)、麻生久(東北大学)、野地智法(東北大学)、秋吉一成(京都大学)、澤田晋一(京都大学)
- 発表論文等:
- 林ら、特願(2018年8月3日)
- Nagasawa Y. et al. (2019) BMC Veterinary Research 15:286