豚レンサ球菌の血清型特異的な免疫組織化学的検出法

要約

新たに開発したStreptococcus suisの免疫組織学的検出法は、組織切片上で病変の原因菌を血清型特異的に検出できる。本手法により、病変と特定の血清型のS. suisを直接関連付けて解析することが可能となり、病理組織学的診断の精度の向上が期待できる。

  • キーワード:豚レンサ球菌症、Streptococcus suis、豚、病理、免疫組織化学
  • 担当:動物衛生研究部門・病態研究領域・病理ユニット
  • 代表連絡先:電話 029-838-7895
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

豚レンサ球菌症はStreptococcus suisを原因とする豚の伝染病である。若齢豚はS. suisに対する感受性が高く、敗血症、髄膜炎、心内膜炎、肺炎および関節炎など様々な病態を示す。S. suisは莢膜多糖体抗原の違いにより30種類以上の血清型が報告されている。現在、世界各国の病豚から血清型2が高頻度で分離されているが、その他の血清型も分離される。また同一個体の扁桃から複数の血清型がしばしば分離される。そのため、病変と関連する特定の血清型のS. suisを免疫組織化学的に検出できれば、病豚から分離された細菌が病変を形成した真の原因菌であることの証明となり、正確な診断と的確な治療・予防法策定に資することができる。
そこで、本研究では、代表的な血清型のS. suisおよびそれらに対する家兎抗血清を用いて、免疫組織化学的な交差反応の有無を明らかすることにより、血清型特異的で高感度なS. suisの免疫組織化学的検出法の開発を行う。また、養豚場でグラム陽性菌感染症を発症した豚に本法を応用して診断や病理組織学的病態解析における有用性を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 国内で分離される重要なS. suis血清型1、2、4、7、9および14について、各血清型の細菌を含むパラフィンブロックおよび各血清型の抗S. suis抗血清を用いて免疫組織化学的染色を行うことにより、S. suis血清型1、2、4、7、9および14を判別することが可能である。
  • 起立困難および遊泳運動等の重篤な症状を示した子豚の病性鑑定事例では、化膿性髄膜炎および心外膜炎が認められ、本法の適用によってグラム陽性球菌に一致して抗S. suis血清型14抗血清に対する特異的陽性反応が検出される(図1a、b)。本事例ではS. suis血清型14が原因であることを国内で初めて証明している。
  • 食欲不振を呈し死亡した7カ月齢の豚の病性鑑定事例では、グラム陽性菌塊を伴う肝膿瘍が認められ、本法の適用によってグラム陽性球菌に一致して抗S. suis血清型4抗血清に対する特異的陽性反応が検出される(図2a、b)。本事例ではS. suis血清型4が豚の肝臓に膿瘍を形成することを国内で初めて証明している。
  • 本法は、豚レンサ球菌症に関する病態解析研究や病性鑑定の補助診断技術として利用できる。

成果の活用面・留意点

  • 必要に応じて7種類の陽性コントロールパラフィン包埋ブロック(S.suisの血清型1(NCTC10237株)、1/2(2651株)、2(NCTC10234株)、4(野外分離株)、7(8074株)、9(22083株)及び14(13730株))を利用することができる。
  • 抗血清と菌体の血清型の組み合わせによっては交差反応を示す場合がある点に留意が必要である。

具体的データ

図1a 子豚の大脳。化膿性髄膜炎,図1b 子豚の大脳。化膿性髄膜炎病変内に抗S. suis血清型14に対する陽性反応(赤色)が確認される,図2a 成豚の肝臓。化膿性肝炎病変にグラム陽性球菌(青色)がみられる,図2b 成豚の肝臓。化膿性肝炎病変のグラム陽性球菌に一致して抗S. suis血清型4に対する陽性反応(赤色)が確認される

その他