口蹄疫の感染拡大ルートを推定することで、感染拡大につながる要因を評価できる

要約

2010年に国内で発生した口蹄疫について、発生農場の感染日などの情報と発生農場から分離されたウイルスの遺伝子情報を利用して、どの農場からどの農場に感染が拡大したかを推定できる。さらに、推定された感染拡大ルートから、感染拡大につながる要因を推定できる。

  • キーワード:口蹄疫、全ゲノム解析、地理情報、感染拡大ルート、リスク要因
  • 担当:動物衛生研究部門・ウイルス・疫学研究領域・疫学ユニット
  • 代表連絡先:電話 029-838-7895
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

口蹄疫などの伝染病の発生時には、多くの農場に感染(二次感染)を起こした農場と、そうではない農場があると考えられる。どの農場がどの農場から感染したかが分かれば、感染拡大につながりやすい要因を推定できる。本研究では、2010年に国内で発生した口蹄疫について、発生農場の感染日や農場の位置と、発生農場から分離されたウイルスの全ゲノム情報を利用して、農場間の感染拡大ルートを推測する。更に、推定された感染拡大ルートから、各農場から生じた二次感染の戸数を算出し、二次感染の有無と、二次感染の戸数に関連している要因を分析することで、感染拡大につながるリスク要因を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 感染拡大ルートを推定した結果から、初発農場が摘発される約3週間前には最初の感染が起こっており、初発農場の摘発時には少なくとも12戸の農場が感染していたと推定される(図1)。
  • 合計292戸の感染農場のうち、101戸で二次感染が起きたと推定され、二次感染が起こった場合の二次感染農場数は、1戸あたり1~18戸と推定される(図2)。
  • 二次感染の有無に関係した要因は、「発症から通報までの日数」と「半径1km以内の非感染農場数」であったと推定される(表1)。すなわち、牛農場か豚農場あるいは飼養頭数よりも、通報まで要した日数が長いことや近くに農場が多いことが二次感染のリスク要因であったと考えられる。
  • 二次感染する戸数に関係した要因は、「豚農場であること」と「発症から通報までの日数」であったと推定される(表1)。すなわち、豚農場での発生と通報まで要した日数が長いことが、二次感染戸数の増加のリスク要因であったと考えられる。

成果の活用面・留意点

  • 本研究の結果から、豚農場や農場の密集地にある農場では、感染拡大を防ぐ対策により注意するべきであること、発症の早期通報が重要であること、豚農場での感染は、二次感染戸数増加のリスク要因であることが考えられ、こうした情報は対策の強化や生産者への注意喚起に活用できる。
  • 発生農場の情報と分離されたウイルスの遺伝子データから、感染拡大ルートを推定する本研究の方法は、他の伝染病にも活用できる。
  • 本研究で推定された農場間の感染拡大ルートは、起こりえた感染ルートから、比較的可能性が高いものを示したものであり、流行の特徴や傾向を知ることはできるが、特定の農場間の感染の有無を判断することは出来ない。
  • 今後、農場間で移動する家畜や人・車両など農場間の感染に関連する多様な情報も考慮できる手法について検討する必要がある。

具体的データ

図1 推定された口蹄疫流行における感染拡大ルート,図2 感染農場1戸当たりの二次感染戸数の分布,表1 二次感染の有無と戸数に関するリスク要因の解析結果

その他

  • 予算区分:戦略プロ(家畜伝染病リスク管理)
  • 研究期間:2017~2019年度
  • 研究担当者:
    早山陽子、Simon M. Firestone(メルボルン大)、Mark A. Stevenson(メルボルン大)、山本健久、西達也、清水友美子、筒井俊之
  • 発表論文等:Hayama Y. et al.(2019) Transbound Emerg Dis. 66:2074-2086