可動性遺伝因子の伝達がサルモネラに重金属抵抗性を賦与する

要約

近年、分離頻度が上昇している特定の遺伝子型に属する非定型Salmonella Typhimuriumは、サルモネラに銅及びヒ素抵抗性を賦与する可動性遺伝因子を染色体上に保有している。

  • キーワード:Salmonella Typhimurium、銅抵抗性、ヒ素抵抗性、染色体、可動性遺伝因子
  • 担当:動物衛生研究部門・細菌・寄生虫研究領域・腸管病原菌ユニット
  • 代表連絡先:電話 029-838-7895
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

国内で分離されるSalmonella Typhimurium(ST)は9つの遺伝子型に型別され、このうち9型に属する非定型STは近年、国内における分離頻度が上昇している。9型の染色体上には可動性遺伝因子様の構造をとり、重金属抵抗性遺伝子群を含むSalmonella genomic island 3(SGI3)が存在するが、その伝達性(可動性)や重金属抵抗性への寄与は不明であった。本研究ではSGI3が実際に可動性遺伝因子として伝達し、サルモネラに重金属抵抗性を賦与する機能を有することを示す。

成果の内容・特徴

  • SGI3は両末端の繰り返し配列に挟まれた81 kbの遺伝子領域であり、銅抵抗性遺伝子領域、ヒ素抵抗性遺伝子領域、接合伝達やDNAの分配・複製に関与する遺伝子群、その他の遺伝子から構成される(図1)。
  • STの9型以外の遺伝子型(1~8型)やST以外の血清型を受容菌としてフィルター法による伝達試験を行うと、10-9~10-4の頻度で受容菌にSGI3が伝達した株(SGI3伝達株)を取得できる。
  • SGI3が環状中間体を経て、自身が産生する接合伝達装置により供与菌から受容菌に受け渡され、部位特異的に受容菌の染色体上に組み込まれることを各種実験により確認できる(図2)。
  • SGI3伝達株はSGI3を保有しない受容菌と比較して、嫌気条件下における銅および好気条件下におけるヒ素の最小発育阻止濃度(MIC)がそれぞれ6倍および128倍以上高い、すなわちSGI3の獲得により各条件下での重金属への抵抗性が高まることを確認できる(表1)。
  • 丸19型ST株(親株)、丸2親株からSGI3全長を欠失した変異株、親株のSGI3にある2つの銅抵抗性遺伝子領域のうち丸3pcoまたは丸4cus領域の一方のみを欠失した変異株について銅抵抗性を比較したところ、cus領域を保有しない株(丸2SGI3欠失変異株および丸4cus領域欠失変異株)では親株と比較して嫌気条件下におけるMICが同レベルまで低下することから、SGI3のcus領域が嫌気条件下における銅抵抗性に寄与すると判断できる(表2)。

成果の活用面・留意点

  • 本研究成果はSGI3の存在が嫌気度の高い腸管内におけるサルモネラの銅抵抗性に寄与し得ることを示唆している。
  • 薬剤耐性菌対策の一環として抗菌剤の使用量低減が求められる中、抗菌作用を期待して高濃度の銅が飼料に添加される場合があり、SGI3の存在はそのような状況下での9型ST顕在化の要因の1つである可能性が考えられる。
  • 我が国においても銅は飼料添加物として使用されていることから、本研究成果の周知により銅の高濃度使用を控えるよう農家を啓発する必要がある。

具体的データ

図1 SGI3の構造,図2 SGI3の伝達機構,表1 銅とヒ素に対する抵抗性,表2 各種変異株の銅抵抗性

その他

  • 予算区分:競争的資金(医療研究開発推進)
  • 研究期間:2017~2019年度
  • 研究担当者:
    楠本正博、新井暢夫(大阪府大)、関塚剛史(感染研)、玉村雪乃、日根野谷淳(大阪府大)、山﨑伸二(大阪府大)、岩田剛敏、渡部綾子、黒田誠(感染研)、秋庭正人
  • 発表論文等:Arai et al. (2019) Antimicrob. Agents Chemother. 63(9). pii: e00429-19. doi: 10.1128/AAC.00429-19 (2019)