国内で初めて摘発された山羊の非定型スクレイピー
要約
山羊の非定型スクレイピーが確認されたのは、伝達性海綿状脳症の国内サーベランスで初めてのことである。罹患山羊は、非定型スクレイピー症例で高頻度に認められるプリオン蛋白質のアミノ酸多型を持つ。
- キーワード:山羊、非定型スクレイピー、アミノ酸多型
- 担当:動物衛生研究部門・ウイルス・疫学研究領域・感染生態ユニット
- 代表連絡先:電話 029-838-7895
- 分類:研究成果情報
背景・ねらい
伝達性海綿状脳症(TSE、いわゆるプリオン病)は正常なプリオン蛋白質が異常化することによって生じる人と動物の疾患であり、めん羊・山羊のスクレイピーは18世紀からその存在が知られている。我が国では、家畜伝染病予防法に基づき12ヶ月齢以上で死亡しためん羊・山羊ならびに鹿を対象にTSEの監視・調査を実施している。スクレイピーには加齢に伴い自然発生する非定型スクレイピーが存在し、発病個体のプリオン蛋白質には特有のアミノ酸多型が高頻度に観察される。非定型スクレイピーは、国内では2016年にめん羊で初めて確認されたが、国外ではめん羊だけでなく山羊での報告もある。国内で初めて確認された山羊の非定型スクレイピーに関する今回の研究成果は、摘発数の少ない症例の診断に有益な情報を提供する。
成果の内容・特徴
- TSEの監視・調査で初めて孤発性の非定型スクレイピーと診断された山羊は115か月齢で死亡した個体である。
- 罹患山羊は、死亡の3か月前に歩行不能を呈し、3日前に起立不能となった個体であり、脊髄の第一頸髄に異常プリオン蛋白質の蓄積を認める。
- 罹患山羊は、めん羊や山羊の非定型スクレイピーで高頻度に観察されるプリオン蛋白質のアミノ酸多型を示す。
- 罹患山羊からは、ウエスタンブロット法により蛋白質分解酵素で分解されない異常プリオン蛋白質が検出される(図)。定型スクレイピーでみられる3本のバンドパターンとは異なり、めん羊の非定型スクレイピーと類似した複雑なバンドパターンが観察される。
成果の活用面・留意点
- TSEの監視・調査で実施しているウエスタンブロット法で、非定型スクレイピーを診断することが可能である。
- 山羊の検体採材部位として、延髄かんぬき部が診断に有効である。
具体的データ

その他
- 予算区分:交付金
- 研究期間:2017~2019年度
- 研究担当者:松浦裕一、宮澤光太郎、今村守一(宮崎大)、横山隆、岩丸祥史
- 発表論文等:Matsuura Y, et al. (2019). J. Vet. Med. Sci. 81(7):986-989