牛子宮内膜細胞が分泌するケモカインにより、牛伝染性リンパ腫ウイルス感染B細胞が誘引される

要約

牛伝染性リンパ腫ウイルス(BLV)感染B細胞は、牛の子宮内膜細胞が分泌する細胞誘引物質(ケモカイン)であるCCL2およびCXCL10によって誘引されるとともに、子宮内膜細胞と細胞融合を引き起こす。

  • キーワード:牛伝染性リンパ腫ウイルス、胎盤感染、子宮内膜細胞、ケモカイン
  • 担当:動物衛生研究部門・ウイルス・疫学研究領域・牛ウイルスユニット
  • 代表連絡先:
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

牛伝染性リンパ腫ウイルス(別名 牛白血病ウイルス;BLV)は、牛のB細胞に感染して牛伝染性リンパ腫と呼ばれる致死的な病態を引き起こす。発症する個体はごく一部であるものの、BLVに感染した牛は生涯ウイルスを保持し感染源となるため、感染予防と感染牛の摘発淘汰に重点を置いた対策が取られている。しかしながら、妊娠中の母子間感染(胎盤感染)はそのメカニズムが解明されておらず予防が困難であるため、効果的な予防法を開発するためにはBLVが胎盤に感染するメカニズムを明らかにする必要がある。
本研究では、胎盤を形成する細胞である牛子宮内膜細胞に着目し、子宮内膜細胞が発現する細胞誘引因子(ケモカイン)がBLV感染B細胞の遊走性に与える影響や、子宮内膜細胞とBLV感染B細胞の親和性を評価する。

成果の内容・特徴

  • 子宮内膜細胞を培養した培養液はBLV感染B細胞を強く誘引する。この結果は、子宮内膜細胞がBLV感染細胞を誘引する物質を産生することを示す。(図1A)
  • 牛子宮内膜細胞におけるケモカイン遺伝子の発現を対照細胞と比較した結果、CCL2とCXCL10の発現量が有意に高い値を示す。この結果は、CCL2とCXCL10がBLVの胎盤感染にかかわる因子であることを示唆する。(図1B)
  • 誘引されたBLV感染B細胞は、子宮内膜細胞と共に培養すると融合細胞を形成する。(図2)
  • これらの結果は、牛の胎盤を形成する細胞の一つである子宮内膜細胞がBLVの胎盤感染において重要な役割を果たす可能性を示唆するものである。

成果の活用面・留意点

  • 胎盤を介したBLVの感染メカニズムに関する知見を得ることで、未だ予防法がないBLV母子感染に対する対策への応用が期待される。
  • 本研究で認められたB細胞の誘引現象は、BLV感染細胞に特異的なものではなく、生体が本来持っている機能を利用してBLVは胎盤に感染している可能性が考えられる。

具体的データ

図1 細胞培養液によるBLV感染細胞の誘引試験と、各細胞のケモカイン発現量比較解析 A:細胞を培養した後の培養液と新鮮な培養液を用いた細胞誘引試験。 B:子宮内膜細胞及び腎臓由来細胞が発現するケモカイン遺伝子の発現量比較。,図2 子宮内膜細胞とBLV感染細胞を共培養した際に認められる融合細胞

その他

  • 予算区分:委託プロ(薬剤耐性)
  • 研究期間:2017~2020年度
  • 研究担当者:安藤清彦、西森朝美、作本亮介、林憲悟、畠間真一
  • 発表論文等:Andoh K. et al. (2020) Veterinary Microbiology 242:108598