海外で流行している牛RSウイルスと異なる遺伝子型のウイルスが国内の牛に流行している

要約

海外で流行する牛RSウイルスはG遺伝子の配列を基に9種類の遺伝子型に分類されるが、わが国の牛にはこれらと異なる型のウイルスが流行している。国内流行株の遺伝子型が過去から大きく変化しているが、抗原型決定に関与する重要なアミノ酸はいずれの年代の流行株にも保存されている。

  • キーワード:BRSV、遺伝子型10、新型、系統学的分類、G遺伝子
  • 担当:動物衛生研究部門・ウイルス・疫学研究領域・牛ウイルスユニット
  • 代表連絡先:
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

牛RSウイルス(BRSV)は牛呼吸器病症候群の原因となるマイナス鎖RNAウイルスである。ウイルスゲノムは変異しやすく、これによって生ずる野外株の多様性が、感染動物の免疫から回避されやすい原因の1つである。ワクチンによるBRSVの制御戦略を考える上で、最新の国内流行株のゲノム情報を収集し、変異の実態を明らかにすることが重要である。
そこで、本研究では近年採取された22検体のBRSV感染材料から、GおよびF遺伝子の塩基配列情報を取得し、過去の流行株やワクチン株と比較解析する。特にG遺伝子領域には、抗原型A、B、ABタイプを規定する配列が存在することから、当該領域の解析によって株間の抗原型の差について知見を得る。

成果の内容・特徴

  • G遺伝子の塩基配列に基づく分子系統樹解析では、国内で流行するBRSVはいずれも既知の遺伝子型1~9に分類されないことから、新たなグループとして遺伝子型10を提唱する(図1)。
  • 遺伝子型10の中で、HK1202/05/JP他10株(2003~2005年分離)は系統10A、HK04/18/JP他14株(2017~2019年分離)は系統10Bに分類され、それぞれ流行年代毎に異なるサブグループを形成する(図1)。
  • G遺伝子の抗原性を規定する領域のアミノ酸は、過去と現在の流行株でいずれも保存されており、抗原型Aタイプのパターンを示す(表1)。
  • F遺伝子の分子系統樹解析でもG遺伝子の解析結果と同様の樹形が形成され、国内流行株は既知の遺伝子型とは異なるグループを形成する。

成果の活用面・留意点

  • 国内で現在流行しているBRSVは、海外で流行するBRSVと遺伝学的な系統が異なる。
  • 抗原性に関与するG遺伝子領域のアミノ酸配列の解析結果から、野外株とワクチン株はいずれも抗原型Aであったことからこれらのウイルス株の抗原性の相違は少ないと推察されるが、中和試験等による抗原性状の確認も必要である。

具体的データ

図1. BRSV G遺伝子の塩基配列を基に作成した分子系統樹。,表1. BRSV G遺伝子領域の抗原型を規定する180番目と205番目のアミノ酸。

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2019~2020年度
  • 研究担当者:熊谷飛鳥、川内京子(北海道十勝家保)、安藤清彦、畠間真一
  • 発表論文等:Kumagai A. et al. (2021) J. Vet. Diagn. Invest. 33(1):162-166 doi: 10.1177/1040638720975364